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2025.01.15

【報告】UIA国際シンポジウム「仏法東漸:従印度到東亜的仏教軌跡」

2024年12月14日から15日の二日間、東京大学東洋文化研究所3階大会議室にて、「仏法東漸:従印度到東亜的仏教軌跡」をテーマとするUIA国際シンポジウムが開催された。本シンポジウムは、仏教がインドから東アジアへと伝播していく過程を多角的に再考し、その多層的な意義を議論することを目的としている。使用言語は日中英の3カ国語で、対面形式により実施された。国内外からの研究者が集い、緻密な研究成果をもとに活発な議論が交わされた。なお参加者数は計25名にのぼった。

初日は、柳幹康氏(東京大学)の開会挨拶からスタートした。柳氏は、潮田総合学芸知イニシアティブの理念と活動について紹介した後、「山川異域、風月同天」という言葉を引用して、国境や世代を超えた学術交流の意義を強調した。さらに、仏教をテーマとする本シンポジウムが次世代への架け橋となることを願うと述べた。

 

続く第一セッションでは三つの発表が行われた。最初に何歓歓氏(浙江大学)は「論「無我」的翻訳変遷与思想演進(「無我」に関する翻訳の変遷と思想の発展)」というタイトルで発表を行い、「無我」の概念がインドから中国へ伝わる過程での翻訳や思想的変容を分析した。特に語義用法の変化に注目し、異なる思想体系における概念の再解釈を深く掘り下げた。

 

次に林鎮国氏(国立政治大学)は「Philosopher should penetrate the treatise with the means of valid cognition: Tongrun (1565-1624)’s Hermeneutics in his Commentary on the Qixinlun(『智者即量以通論』:通潤(1565-1624)『起信論続疏』の解釈学的方法)」と題し、16世紀末の学僧通潤の注釈学について考察した。林氏は通潤の人物像や、『大乗起信論』を解釈学的に分析する方法を解説し、形式的論理と禅的問答を融合させた独自の手法を明らかにした。

 

続いて一色大悟氏(東京大学)は「集団と理念:日本倶舎学におけるインドの部派仏教観」を発表した。『阿毘達磨倶舎論』と世親の所属部派問題を軸に、日本倶舎学史を再検討し、近世から現代までの仏教学における意義を考察した。

 

午後のセッションでは、禅宗と密教をテーマとする発表が行われた。柳幹康氏は「禅宗如何崛起:以武周朝的碑文、墓誌、灯史為中心(禅宗の興起:武周期の碑文・墓誌・灯史を中心に)」と題し、禅宗が武則天の支持を受けて発展した背景を、碑文・墓誌・灯史という三種の同時代資料を用いながら分析した。特に、武則天が禅宗に注目した理由として封禅との関連性を指摘した。

 

陳継東氏(青山学院大学)は「重構密宗:従赫舎里如山到楊文会(「密宗」の再構築:赫舎里如山から楊文会へ)」を発表し、密教が「瑜伽密教」「瑜伽宗」「密宗」へと変遷する過程での認識の変化や再構築を明らかにした。

 

その後、書評セッションでは、『側写江戸仏教思想』(林鎮国・簡凱廷主編、法鼓文化、2024年3月刊行)をテーマに、柳幹康氏の司会のもと、編者の林鎮国氏、簡凱廷氏(国立台湾大学)、および評論者の蓑輪顕量氏(東京大学)、曾根原理氏(東北大学)、堀内俊郎氏(東洋大学)、一色大悟氏が議論を交わした。江戸仏教思想の現代的意義についても掘り下げられ、学術的対話が一層深まった。

 

二日目は、王芳氏(花園大学)が「江戸仏教的近代性探索:以鳳潭『十不二門指要鈔詳解選翼』為例(江戸仏教における近代的模索:鳳潭『十不二門指要鈔詳解選翼』を中心に)」を発表し、江戸仏教における合理主義と東アジア文化圏内の連動性を考察した。

 

次に簡凱廷氏(国立台湾大学)が「再論乗因神道説中的「道教」因素:基於新発現的『周易禅解神道契』(乗因神道説における「道教」要素の再検討:新たに発見された『周易禅解神道契』を基に)」を発表し、新発見の『周易禅解神道契』を基に乗因の神道思想における道教的要素を再評価した。

 

午後には博士課程学生によるフォーラムが開催された。李承恩氏(国立政治大学)は「Jayanta’s Defense of Real Universals(ジャヤンタによる普遍の実在性の弁護)」を発表し、普遍と自相の共存や非概念的認識の必要性を論じた。

 

葉嘉雯氏(国立政治大学)は「Dharmapāla and his Interpretation of Two Truths(護法とその二諦の解釈)」をテーマに発表し、瑜伽行派の護法思想を分析した。

 

また、小林遼太郎氏(東京大学)は「澄観《行願品疏》的成立背景:以与王権的関係為中心(澄観『行願品疏』の成立背景:王権との関係を中心に)」と題して、唐代の仏教と政治の関係を明らかにした。

 

宋東奎氏(東京大学)は「仏教逆流:《観経疏顕要記破文》案例研究(仏教の逆流現象:『観経疏顕要記破文』の事例研究)」を発表し、東アジア仏教における相互影響を分析した。

 

最後に、赤塚智弥氏(東京大学)は「密教在日本:即身成仏中的身与心(日本における密教―即身成仏の中の身と心)」と題し、即身成仏思想の歴史と真言宗の解釈を中心に議論した。

 

閉会式では林鎮国氏が、二日間にわたる議論を総括し、仏教思想が時代や文化を超えて持つ持続的な力とその意義を改めて強調した。本シンポジウムは、仏教思想研究の新たな方向性を示すだけでなく、地域を越えた学術交流の場として意義深いものとなった。

なお二日間にわたり曾昭駿氏(浙江工商大学)、荒井明佳氏(東京大学)が質疑応答を中心に日中2カ国語間の通訳をご担当くださった。

今回のシンポジウムでは、国内外から集まった多くの研究者が、それぞれの視点から研究発表を行ない、活発な議論を交わした。それは仏教研究というテーマを通じて学問的な絆を深める場であり、世代や国境を超えた知的交流の意義を改めて実感させられるものであった。このような学術的対話が次世代にどのように受け継がれ、新たな成果を生み出していくのか、大きな期待が寄せられる。

 

 

報告者:伊丹(EAA特任研究員)