2024年3月11日(月)10:30より、東京大学東洋文化研究所にてEAA国際シンポジウム「東アジア前近代の地域社会:比較史研究の方法と史料」を対面で開催した。報告者として中国の明清地域・区域社会史研究者である趙世瑜氏(北京大学歴史学部)と賀喜氏(香港中文大学歴史学部)、日本の日本地域史研究者である湯浅治久氏(専修大学文学部)を、コメンテーターとして日本の明清史の研究者である岸本美緒氏(公益財団法人東洋文庫)をお迎えした。司会は黄霄龍氏(EAA特任研究員)、通訳は黄と袁甲幸氏(早稲田大学歴史館)が務めた。日本中世史や明清史の研究者など、約17名の参加者を得た。
趙世瑜氏は、「近年来中国的民间文献收集和区域社会史研究(近年の中国における民間文献の収集と区域社会史研究)」と題する報告を行った。20世紀初頭に始まった、民間文献の調査に携わった顧頡剛、傅衣淩、梁方仲ら先駆者たちの仕事から、1990年代以降始まった、徽州文書をはじめとする大規模な調査を紹介したうえで、中国の地域毎に民間文献、文書の伝来の仕方の特徴を説明した。そして、ご自身の新著『猛将還郷』の紹介も交えつつ、中国の区域社会史研究への展望を述べた。
賀喜氏は、「祭:卡里斯马的寻常化 (祭祀―カリスマの日常化―)」と題する報告を行った。江西省を具体例として、明清の民間祭祀の変化に注目した内容であるが、宗族の発展に影響した重要な要素として、マルチラインの族譜(multi-line genealogy)の製作、ならびに祠堂という祭祀の場の村落における定着を挙げた。そして、こうした歴史的過程を地方宗教という文脈に位置付けるべく、マックス・ウェーバーによるカリスマの議論を援用し、カリスマの日常化という概念で表現した。
湯浅治久氏は、「日本中世の地域社会―中間団体・社会的権力・信仰―」と題する報告を行った。日本の学界における、現在の日本中世の地域社会論の到達点を示したうえ、報告者のスタンスを述べた。そして、日本中世の地域社会の特徴として、ゆるやかな統合、分権的な社会、複数の「統治の主体」の存在を挙げて、これらの要素を体現する日本中世の史料(指出、「日記」、一揆契状など)を検討した。
コメンテーターの岸本美緒氏は、日本の明清「地域社会論」を手掛かりに、①20世紀前半期からの在地社会研究の伝統及び社会改革、②20世紀後半の新潮流、③「地域社会論」的方法の地域的・時代的有効範囲、④将来の課題としての在地文献の収集と現地調査の視角からコメントしたうえ、各報告者にそれぞれ質問を行なった。それを承けて報告者とコメンテーター、および参加者の間で活発な意見交換が行なわれた。
6時間にわたる長丁場のシンポジウムにもかかわらず、最後まで多くの方にご参加いただけたことに心より感謝申し上げる。また、フロアーから多くの質問ペーパーをお寄せいただいたにもかかわらず、時間の都合上、当日取り上げられなかった点についてお詫び申し上げたい。会の終了後、シンポジウムの内容を活字化する予定の有無についての問い合わせなどもあり、議論が尽きなかった。本シンポジウムを皮切りとする学術交流が今後展開することを願う次第である。
報告者:黄霄龍(EAA特任研究員)