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2024.07.11

【報告】第23回 藝文学研究会

2024年7月1日、東洋文化研究所にてハイブリッド形式で、第23回藝文学研究会が開催された。今回は張文良氏(中国人民大学仏教与宗教学理論研究所)から「「共在」・「共成」と「関係性の思考」」というタイトルで発表をいただいた。対面では12名、オンライン参加は延べ12名、計24名が参加した。そのなか、インド哲学仏教学や東洋史の大学院生に多数ご参加いただいた。

この報告において張氏は、「関係性」の思考の現代的な解釈という課題をめぐって、中国の趙汀陽氏が提唱した「共在」の哲学、日本の木村清孝氏が提唱した「共成」の哲学の内在的関連を検討した。

 

 

趙氏が説く「共在」の含意の一つは「天下体制」と関わる。趙氏の解釈によれば、中国の古典である『尚書』や『礼記』に初めて登場した「天下」概念は、①地理的な観点からみた全世界、②心理的な観点からみた全世界(儒家の「民心」)、③政治的な観点からみた現在の全世界という3つの含意があるが、「天下体制」こそが「世界体制」、つまり世界全体を治める理想的な統治体制である。それに対して、木村氏が想定する哲学的な理論の最も代表的なものは、「縁成共与」の哲学である。「縁成」は華厳教学に由来する概念で、あらゆる事物はさまざまな要素や条件(縁)が集まって構成されており、固定的な実体を持たないがゆえに、無限の作用を発揮することができる。「共与」は木村氏の独自の概念で、簡単に言えば「共同参加(mutual part-taking)」を意味します。すなわち、各個人が「多重環境存在者」として、環境の変革と再生に積極的に参加することである。

趙氏が提唱した「共在」の哲学は中国の儒家と道家の思想に由来し、木村氏が提唱した「共成」の哲学は仏教の縁起説と「山川草木悉有仏性」の理念に基づいており、両者は知識背景が異なる。しかし両者の理論は、①関係性の強調、②行動性の重視、③倫理性の提唱、④社会性への展開の点において共通性を持っている。「共在」と「共成」の哲学は、あらゆる存在の関係性を説明する普遍的な原則として、その理念をさまざまな対立関係(例えば、人と自然、伝統と現代)に適用することができる。われわれ皆がそれを実践してゆけば、「共在」と「共成」は単なる理論にとどまらず、現代社会を改革し、世界を変える原動力となると張氏は唱えた。

 

 

質疑応答では、趙氏が提唱する「天下」と仏教の違い、東洋哲学と西洋哲学の適用しあうことや、哲学が提示するビジョンの実現可能性などをめぐって活発な議論が行われた。

 

 

 

報告者:黄霄龍(EAA特任研究員)