2023年10月30日(月) 16:50より、第6回EAA研究会「東アジアと仏教」を開催した。今回は張超氏(PSL研究大学フランス高等研究実習院専任副研究員)をお迎えし、「在法国研究中国宗教」(フランスにおける中国宗教研究)と題するご講演をいただいた。通訳は小川隆氏(駒澤大学)、司会は柳幹康氏(東京大学東洋文化研究所)がつとめた。
講演は、フランスにおける中国宗教研究のこれまでの流れと、フランスの研究体制の大まかな状況の二部に分けられる。
フランスにおける中国宗教研究は、中国学(「漢学」)のサブ分野としてルーツを持つと述べられた。そして、Édouard Chavannesから始まる先駆的な仏教学研究者の系統樹が紹介された。特に、『法宝義林』の編纂事業を作り、傑出した中日仏教・宗教研究者も育成したPaul Demiévilleや、その高弟にあたり、中国仏教研究の里程標とも評価されている Les aspects économiques du bouddhisme dans la société chinoise du Ve au Xe siècle (Buddhism in Chinese Society: An Economic History from the Fifth to the Tenth Centuries)を著したJacques Gernetが特筆された。また、禅学研究の成果として、『臨済録訳注』や『馬祖語録』、『絶観論』などが紹介された。張氏によれば、フランスの中国仏教学研究の特徴は以下の三点である。(1)中国学が成立して200年来、終始一次文献の収集と利用を重視し、東アジアの機関と連携しながら、文献学の手法を重んじる。(2)仏教研究と道教研究両方で訓練を受け、比較研究を進める研究者が多い。(3)フィールドワークを重視し、芸術・建築・文化人類学など人文学のさまざまな方法と資料を駆使する。
以上の前半部に続き後半部において張氏は、フランスの教育と研究組織として、1. 大学、2. フランス独自の制度である大学校、3. 教育を行わない「研究機関」(例えば極東学院)、4.「研究室」(研究の基層組織)も紹介した。質疑応答では、翻訳された仏典の読者層や、「研究室」の規模などに関する質問があがった。
報告者は張氏の講演を受けて、フランス語圏での中国宗教研究はやはり堅実な原典翻訳作業に立脚しているという感想を持った。同時に、中国語圏で行われている中国宗教・中国仏教研究との間の交流の状況や、張氏ご自身が行っている中国宗教研究(および今後なされるであろう日本中世の禅宗研究)をそれぞれどのように中国語圏、フランス語圏ひいては日本語圏・英語圏の研究に位置付けようとされているのかについて気になった。機会があればまた話を伺いたい。
報告者:黄霄龍(EAA特任研究員)
シンポジウム「日本における宋代禅の受容と展開」