プロジェクト
学術フロンティア講義「30年後の世界へ」

【開講情報】学術フロンティア講義「30年後の世界へ——ポスト2050を希望に変える」(2024年度Sセメスター)

東アジア藝文書院(EAA)では、下記の通り、2024年度も学術フロンティア講義を開講いたします。

目次

開講情報

2024年度Sセメスター 学術フロンティア講義「30年後の世界へ——ポスト2050を希望に変える」
曜日・時限 金曜5限(17時05分から18時35分)
教室 18号館ホール
※ただし、第1回のみはZoom(URLは学習管理システム「UTOL」の「オンライン授業情報」欄で確認してください)で実施します。

科目区分 教養学部前期課程 主題科目「学術フロンティア講義」/教養学部後期課程 高度教養特殊講義(東アジア教養学)
※履修・授業に関する詳細な情報については、学務システム「UTAS」で確認してください。
成績評価について リアクションペーパーをもとに本科目の合否判定を行います。単位の取得を希望する方は、第2回(4/19)以降の12回の授業のうち、8回以上について、リアクションペーパーを提出してください。授業に関する一般的な質問・意見もこれを通じて出してくださってかまいません。提出締切は、7月21日(日)とします。

リアクションペーパー

※授業フライヤーPDF版ダウンロード

開講趣旨

東京大学東アジア藝文書院(East Asian Academy for New Liberal Arts, EAA)は2019年度から毎年、「30年後の世界へ」を共通テーマとしてこのオムニバス講義を開講し、様々な角度から「世界」を問うてきました。世界はわたしたちの外側にあるのではなく、わたしたちが世界を創っているのだと言えます。世界を問うとは、既成の価値を疑いながら未来に関与することです。問いは智慧を発動させ、その智慧を育むのが大学という場所です。この講義は大学の役割を行為的に表現し、大学の新たな価値を生みだす実験なのです。特に2023年度は「空気の価値化」という命題を学内外だけでなく社会と連携しながら問うてきました。 さて、30年後の世界はどうなっているでしょうか。気候変動の影響を最小限に抑えるための目標として、多くの国々が炭素排出量実質ゼロ(カーボン・ニュートラル)実現の期限に定めているのが2050年です。しかしその実現がきわめて難しいことはいまや半ば公然の事実になりました。たとえ目標が達成されたとしてもそれで気候危機が解決されるわけではなく、わたしたちはその後も長期にわたって、自らの文明が生みだした様々な災害——自然災害、戦争、圧政、貧困など——の中で生きていかなければなりません。わたしたちは、21世紀の後半に向かって、長い危機の時代を生きていくことになります。これこそは、「30年後の空気」が規定するわたしたち人類の基礎条件です。そこで、2024年度は「30年後」を越えて、この「危機の空気/空気の危機」の中から希望を見いだすべく、以下の三つの柱を中心に皆さんと議論したいと思います。

  1. 復興の技法。人は他と共同しながらつねに自らを変容させ、成長していきます。危機を変容や成長を促す好機であるととらえるなら、「復興」とは人間の変容と成長の そのものであると言えるでしょう。危機の中からわたしたちはどのような復興のあり方を想像するでしょうか。またテクノロジーはどのような役割を果たすべき でしょうか。
  2. ロゴスの複雑化。世界は分断の時代に入ったと言われます。20世紀までの世界を支えてきた政治制度の枠組みは地殻変動のように長期にわたる大きな変革を被りつつあります。いまの世界を構成している政治のロゴスは十全なものではないのかも知れません。世界をあらわす(表す/現す/著す)ロゴスを豊かにすることが不可欠でしょう。
  3. 惑星時代の人間。人新世やプラネタリー・バウンダリーなどの概念は、近代的な人間観の改変を促しています。「人間」とは何か? この終わりなき存在論的問いを、人間を棲まわせているこの地球という環境との連続の中で再び定義することは可能でしょうか。可能であるとして、それはいかにして可能になるでしょうか。

「30年後の世界」に希望をもたらすのは、他ならぬわたしたち自身です。皆さんと「問い」を共にして、この講義をポスト2050に向けた希望の出発点にしたいと思います。

各回の授業題目

  • 第1回 4月5日(金) 
    ガイダンス
  • 第2回 4月19日(金) 溝口 勝 (東京大学大学院農学生命科学研究科)
    「レジリエンスと地域の復興」
    レジリエンスは日本語で回復力とか復元力と訳される。しかし、Cambridge Dictionaryでは、the ability to be happy, successful, etc. again after something difficult or bad has happenedと定義されている。すなわち、悪いことに直面しても「もうダメだー」と落ち込んだりせずに不死鳥の如く復活して幸福を取り戻す能力といえる。13年前の福島の原発事故や今年の元旦の能登半島地震で被災した地域の復興ではまさにこの「レジリエンス」が試される。本講義では30年後を見据えた真の復興について考えたい。
  • 第3回 4月26日(金) 高橋 伸一郎 (東京大学大学院農学生命科学研究科)
    「人類はこれからどのような食生活をしていくべきか——次世代栄養学とOne Earth Guardiansからの提言」
    人類の活動が引き起こした異常気象、生物多様性の喪失、そしてパンデミックなど、人類の生存を脅かす地球上の課題が日々積み重なっています。そして、多くの科学者が、人類存亡はこれらの課題解決にかかっており、今後10年間で正しい方向へ舵を切らなければ致命的となると指摘しています。このような現状の中、人類という生物は、地球上でどのように生きていったらよいのか、食を例に、私達の教育や研究のプログラムの取り組みを紹介しながら、この難しい問いを一緒に考えたいと思います。
  • 第4回 5月3日(金) 伊達 聖伸 (東京大学大学院総合文化研究科)
    「100年前の日仏交流と平和思想——「気象台」としての宗教学」
    夏目漱石、森鴎外、柳田國男……。東大で初めて宗教学講座を担当した人物は、当時はそうした名前に匹敵する文人でした。あまり知られていませんが、フランスとも縁があり、パストゥールについて論じ、マルセル・モースとも接点がありました。彼はあるところで、自分の仕事を「気象台」に喩えています。それはいかなるロゴスの複雑化に対応するものだったのか、戦争の惨禍を踏まえた平和思想のアクチュアリティを読み解きます
  • 第5回 5月10日(金) 酒井 直樹 (コーネル大学アジア研究学科/東京大学東京カレッジ)
    「外人にかたりかけること——間際性(transnationality)の場面と異言語のかたりかけの政治」
    近代の国際世界は、複数の領土的主権国家が併存する建前の上に成り立っています。各々の国民国家は固有の領土と国語を持ち、それぞれの人口は国境の外からやってくる人々を「外国人」として差別することを当然視します。間際性は、国境と国語による差別を乗り越え、「自国民」も「外国人」も共に「外人」として見る共同性を志向する態度と言えるでしょう。国際性とは違った、間際性による社会性の力学を考えてみましょう。
  • 第6回 5月15日(水) 羽藤 英二 (東京大学大学院工学系研究科)
    「復興の未来」
    能登半島地震と台湾地震の実態を現地調査の基づく様々な観点から論考した上で、東日本大震災の復興の経験と浪江で取り組んでいる浜通り復興、南海トラフや首都直下の事前復興の取り組みを紹介したい。
  • 第7回 5月24日(金) 福永 真弓 (東京大学大学院新領域創成研究科)
    「藻と人間:惑星サルベージとテラフォーミングの倫理」
    私たちが慣れ親しんできた藻類は、「空気の惑星」を生み、維持してきました。現在では、惑星を人間の生きられる場所に維持するためのネオ・テラフォーマー、あるいは宇宙生活をも支える食料・エネルギーの新たなインフラの担い手として期待され、その生命現象は科学技術とより深く混交しています。本講義では、藻と人間の関わりとその存在論的変容について、サルベージとテラフォーミングという補助線を用いて読み解きながら、私たちの惑星の「らしさ」をめぐる倫理的探求を行います。
  • 第8回 6月7日(金) 野澤 俊太郎 (東京大学教養学部/東アジア藝文書院)
    「空間・技術・創造力——建築史からの示唆」
    鉄、ガラス、コンクリートのみならず、電光もまた近代建築を構成する特徴的な要素の1つです。日本において多くの人々が一般的に電光のある生活をするようになったのはちょうど100年ほど前のことですが、それは人々の空間に対する認識をすっかり変えてしまったばかりでなく、これまでにない新しい空間の創造を助長しました。本講義では、そのプロセスに光を当てながら、今日へのささやかな示唆を導き出してみたいと思います。
  • 第9回 6月14日(金) 中島 隆博 (東京大学東洋文化研究所)
    「人間復興と精神復興」
    関東大震災の後、多くの復興事業が手がけられた。その一つに、湯島聖堂の復興がある。1935年にその再建が完成し、儒道大会が開かれた。これは近代における儒教とは何かをあらためて考えさせるものであった。ここでは、帝都復興の傍ら、儒教を通してどのような人間復興が構想されていたかを考えてみたい。それは儒教が中国大陸においても復興しつつある今日において、東アジアにおける人間概念の再構築をわたしたちに迫るものでもある。
  • 第10回 6月21日(金) 冨澤 かな (東京大学大学院人文社会系研究科)
    「いま「東洋」と「近代」を考えて、未来に何をのぞめるだろう?」
    E.サイードが著書『オリエンタリズム』でこのことばに〈ヨーロッパのオリエントに対する思考と支配の様式〉という新たな意味を与えてから、もう半世紀に近い。西洋中心主義批判や近代批判が広く共有され、世界のパワーバランスも大きく変わってきた今、「東西」の分断や「近代」のあり方をを考えることに、どんな意味があるだろうか。世界がさまざまな分断に苦しんでいる今とこれからにむけて、考えたい。
  • 第11回 6月28日(金) 藤原 辰史 (京都大学人文科学研究所)
    「分解の哲学——「食べる惑星」の脱領域的研究」
    生産と消費だけでこの世界の経済活動を語ろうとしていないだろうか。生産や消費のときにでた廃棄物は、地球上に堆積しているだろうか。プラスチックや放射性物質などをのぞいて、地球に住むいきものたち、生態学では「分解者」と呼ばれる微生物や昆虫がそれらを食べることで担っている。この報告では、人間社会でもみられる「分解」という機能に着目し、人文学と生態学をつなぐ新しい学問の構築に寄与したい。
  • 第12回 7月5日(金) 岩川 ありさ (早稲田大学文学学術院)
    「パンデミックを銘記する」
    2020年から続くCOVID-19のパンデミックは現在進行形の問題です。このパンデミックにおいて、それまでも周縁化され、ケアを受けられなかったり、その生の喪失すら記録されず、嘆かれない人びとの存在をつくりだす、不均衡な世界や社会的な条件を私たちが生きていることがより明らかになりました。どうすれば、差異を持った人びとが共に生きられる「共通世界(a common world)」を復興できるでしょうか?(あるいはもとから「共通世界」はあったのでしょうか?) フェミニズム 、クィア理論に影響を与えてきたジュディス・バトラーの仕事に触れながら、現在の変容とそこから生まれる未来について、一緒に考えられればと思います。
  • 第13回 7月12日(金) 石井 剛 (東京大学大学院総合文化研究科/東アジア藝文書院)
    「希望のロゴス——危機における「生」について人類の智慧が教えてくれること」
    なぜポスト2050を希望に変えるために、ロゴスを複雑にしなければならないのでしょうか。それは、ロゴスとはわたしたちが世界にアプローチするための道すじにほかならないからです。それはそもそも単一のものではなく、無数の可能性に開かれたものであるはずです。そして、その可能性とは、わたしたちの生命が向かおうとする道すじが無数に広がっているのと同じように開けているのです。この授業では、これまでの講義を振り返りながら、とくにわたしが専門とする中国の智慧に基づきながら、希望のロゴスについて考えてみたいと思います。

(参考)過去の学術フロンティア講義「30年後の世界へ」シリーズ