【日時】2022年10月28日(金)15時〜16時30分
【場所】東京大学駒場キャンパス18号館4階 コラボレーションルーム1
【開催形式】対面(登録制。参加者上限20人)
【参加申し込み】こちらからGoogleフォームにアクセスし、ご登録ください。
【使用言語】英語(通訳なし)/原稿配布あり
【講演者】
トニ・ヒルデブラント(Toni Hildebrandt)
タイトル:「灰のアポリア 『ヒロシマ・モナムール』におけるアポリア的構造」
(The aporia of cinders and the aporetic structure of Hiroshima, mon amour)
【司会】松井裕美(東京大学)
【コメンテーター】國分功一郎(東京大学)
【要旨】
本発表は、ジャック・デリダの思想、とりわけその晩年の論考「火・灰」(feu la cendre)の精読を通して、映画『ヒロシマ・モナムール』(1959年。邦題は『24時間の情事』)の新解釈を提示する。そこではデリダとサラ・コフマンにおける(二重の)アポリアという概念が重要なものとなる。『ヒロシマ・モナムール』においては、その冒頭から、二つのレベルの物語と言説が絡まり合う。それは愛の物語でありながら、同時に原爆が引き起こした惨劇の表象可能性を映してもいるのである。恋人たちは何度も「ヒロシマ」という言葉の問題に立ち戻り、そのことで原爆投下について語り合う。臥所の親密な空間における恋人たちの体と、世界史の舞台における「ヒロシマ」のアポリアの絡まり合いは、言説の困難さが渦巻く状況のなかでもアポリア的な言説空間を切り開くのである。恋人たちの体に降り注ぐ死の灰という冒頭のイメージから出発する本発表は、あるアポリア的な構造を展開することを目的とする。この構造とは、それを冒頭のイメージに繰り返し結びつけ直し、このマテリアリティのアポリアが有する両犠牲について検討することで、初めて理解できるものである。最終的にはこのことで、美と崇高という古典的なカテゴリーを超えた、新たな美学を把握することが可能になるだろう。
My lecture presents a novel interpretation of the film Hiroshima mon amour (1959) via a close reading of Jacques Derrida’s work, especially his late essay Cinders (feu la cendre), as well as Derrida’s and Sarah Kofman’s elaboration of the concept of (double) aporia. Hiroshima mon amour intertwines from the start two levels of narrative and discourse: it simultaneously tells a love story and reflects on the representability of a nuclear catastrophe. The lovers return again and again to the problem of naming Hiroshima and thereupon discussing the atomic bombing. The intertwining of the lovers’ bodies in the intimate space of the bedroom and the aporia of Hiroshima on the stage of world history opens up the aporetic field of discourse with a whole storm of discursive difficulties. Starting from the opening image of the fallout on the bodies of the lovers, I will unfold a specific aporetic structure that can only be understood when we repeatedly tie it back to the initial image and investigate the ambiguity of this material aporia. Ultimately this allows for the conception of a different aesthetic, beyond the classical categories of the beautiful and the sublime.
【講演者紹介】
ベルン大学研究員(アドヴァンスド・ポスドク)。同大学にて研究プロジェクト「エコロジカルな責務を媒介する」(Mediating the Ecological Imperative)のコーディネーターを務める。2014年にバーゼル大学で美術史博士号を取得(ヴォルフガング・ラチエン賞受賞)。バーゼル大学およびニューヨーク大学のゲスト講師を務めるほか、数々の助成金を得てローマ(Istituto Svizzero、2013〜17年)やミュンヘン(Zentralinstitut für Kunstgeschichte、2019年)、ベルン(Walter Benjamin Kolleg、2020〜21年)に滞在する。単著に、Entwurf und Entgrenzung. Kontradispositive der Zeichnung 1955-1975 [Projection and Expansion: Counterdispositif of Drawing, 1955-1975] (München, Fink, 2017)。共編著に、PPPP: Pier Paolo Pasolini Philosopher (Milan, Mimesis International, 2022)など。また近刊書として、(Post-)apocalyptic Imaginations. Representations of Nuclear Catastrophes in Art and Film since 1945 (München, Fink)を準備中であり、本講演はその一部をなす予定である。
主催:UTCP(東京大学大学院総合文化研究科・教養学部附属 共生のための国際哲学研究センター)
共催:東京大学卓越研究員制度スタートアップ経費(代表者:松井裕美)、東京大学東アジア藝文書院(EAA)