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第8回 学術フロンティア講義
「30年後の世界へ——学問とその“悪”について」

第8講 6月4日 

ミハエル・ハチウス(東京カレッジ、日本文化史)
「「知」の歴史からみた学問の「悪」」
近年急成長中の分野、「知」の歴史。知識を生み出すことを社会的な行為として捉えるこのアプローチを用いることによって、学問と「悪」の関係を考える際に重要な知見を得られるのではないか。この期待を抱いて、そして東アジア藝文書院の座右の銘である「東アジアからのリベラルアーツ」を重視しながら、この講演では学問と道徳の歴史的な位置づけを考える。
舞台は幕末・維新期日本。当時の知識人の思考と活動の出発点は儒学の価値観であり、西洋から入ってきた新しい知識体制の受容も儒学の目を通して形成された。その受容過程が進むにつれ知識と道徳の関係とヒエラルキーが大きく変化したことはよく知られているが、近代化を謳った戦後の歴史家が儒学の立場を否定や無視した事実もある。
この講演では、「知」の歴史のいろいろなアプローチを紹介し、特に「実学」という言葉をめぐる言説と論争にスポットライトを当てる。幕末・維新の知識人は、「実学」とその対義語「虚学」を定義し、またある時には武器として用い、新しい時代の学問の最大の「善」と「悪」を議論したのである。近代化と西洋式普遍主義の限界が明らかになっている今だが、改めて幕末・維新を生きた学者たちの経験を顧みることには大きな価値があるのではないだろうか。