【概要】
人類学・民族学の重要文献「贈与論」(1923-24年)を著したマルセル・モース(1872-1950年)はまた、同時代社会の変革を志した非マルクス主義の社会主義活動家でもあって、しかもこれら両面は分かちがたく結びついていた。フランスでは、1980年代にアラン・カイエらが発足させた研究者集団MAUSS(「社会科学における反功利主義運動」の頭文字)がその志を引き継ぎ、「贈与論」を発想源に新たな社会モデルを探究してきたが、再評価の動きは今世紀になって国外にも広がり、彼自身が与したわけではないアナキズムとの類縁性の示唆を含め(デヴィッド・グレーバー、山田広昭)、創造的な読み直しが進んでいる。
森山工『「贈与論」の思想─マルセル・モースと〈混ざりあい〉の倫理』(インスクリプト、2022年11月)は、翻訳(『贈与論』2014年、『国民論』2018年、ともに岩波文庫)および著作(『贈与と聖物』東京大学出版会、2021年)によって近年の日本におけるモース像の刷新を主導してきた著者の新刊である。一方では執筆の背景をなすフランス内外の政治的・社会的環境との関係の精査を通し、他方ではラトゥール、デスコラ、シモンドンらの理論的地平を踏まえた鮮やかなテクスト読解を通し、「贈与論」の核心をなす「〈混ざりあい〉の倫理」を浮き上がらせるこの決定的な一冊をめぐって、公開合評会を開催する。
本合評会は、EAAと教養学部フランス語部会・イタリア語部会、そして加藤周一おしゃべりの会/羊の談話室(仮称)の共同主催により実施される。モースのように「現存社会主義」の先鋭な批判を前景化させなかったとはいえ多様な社会主義像に目を向け、日本的近代をめぐり「雑種文化」の問題系を提起したこの評論家の遺産継承の課題を背景のひとつとすることで、100年前に西欧の一国で書かれた類例のない著作のアイディアを今日の東アジアにおいて受け継ぎ発展させる試みにいっそうの弾みをつけられたらと考えている。
【日時】
2023年2月11日(土)14:00-17:00
【場所】
東京大学駒場キャンパス101号館11号室(EAAセミナールーム)およびZoom
※対面参加はこちら、オンライン参加はこちらから事前にご登録ください。
なお教室の収容人数の都合上、対面参加は先着15名といたします。
【プログラム】
14:00-14:05 司会挨拶(伊達聖伸/東京大学教授)
14:05-14:30 報告1(山田広昭/東京大学名誉教授)
14:30-14:55 報告2(藤岡俊博/東京大学准教授)
14:55-15:20 報告3(片岡大右/批評家)
15:20-15:30 休憩
15:30-16:00 著者からの応答(森山工/東京大学教授)
16:00-17:00 登壇者間の討議およびフロアとの質疑応答
【主催】
東京大学東アジア藝文書院(EAA)
東京大学教養学部フランス語・イタリア語部会
加藤周一おしゃべりの会/羊の談話室(仮称)
【協力】
インスクリプト