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「文化」をめぐる対立と「人民=ピープル」の不在―コロナ禍への対応をめぐって―

「文化」をめぐる対立と「人民=ピープル」の不在―コロナ禍への対応をめぐって―

【日時】2021年9月27日(月)14時~15時30分

【場所】Zoom ※要事前登録
 こちらよりご登録をお願いいたします。

【講演者】梶谷懐(神戸大学)

【言語】日本語

【概要】

  コロナ禍がまだ収束の兆しを見せない中、その対応をめぐって「民主主義と権威主義のどちらが優位にあるのか」といった議論が目に付くようになった。筆者は、この議論に正面から向き合うためには、コロナ禍はなによりも中国などの非西洋社会と西側社会の「文化」の違いを浮かびあがらせた一方で、グローバルに接合された資本主義の下での「人民=ピープル」に対する搾取と収奪、という世界共通の問題の存在も明らかにした、という二つの側面に注目する必要があると考えている。

 例えば、World Values Surveyの結果を基に人々の価値観をマッピングしたイングルハートヴェルツェル図は、“Confucian”すなわち儒教文化圏と分類された国々と、英語圏の国々および”Protestant-Europe”に分類された国々において、生存と自己表現のどちらを重要視するか、という価値観の違いを鮮明に示している。またこれらの文化圏は、例えば政府に対する信頼性や無制限な権力への容認などの個々の論点に関する回答においても、際立った違いを見せている。COVID-19の感染対策においても、このような「文化」の違いが感染抑制に大きく影響した可能性が高い。さらに、近年の文化進化と経済発展に関する研究成果によれば、このような「文化」の違いはいったん形成されるとなかなか変化しないという性質をもつ。このことは、COVID-19への対応でみられた監視技術の活用や行動制限に対する人々の受容の違い、さらには「人権」のような普遍的な価値をめぐる地域間の分断は、今後も容易には解消されず、むしろますます深まっていく可能性が大きいことを意味する。

 一方、進行するグローバリズムの中に社会主義国家を位置づけるという野心的な試みを行っているのが、ブランコ・ミラノヴィッチの近著『資本主義だけ残った』である。ミラノヴィッチはこの著作の中の中で、中国のような非西洋諸国が社会主義を掲げつつグローバル資本主義の中で高度経済成長を続けているという事実について、これらの国々は始めから資本主義的な経済発展を目指しており、その目的を実現するための手段として社会主義革命を志向した、という仮説を展開している。すなわち、「共産主義とは、後進の被植民地国が封建制を廃止し、経済的政治的独立を回復し、固有の資本主義を気付くことを可能にする社会システム」だったというわけだ。しかし、少なくとも中国の現状を見る限りこのようなグローバルな資本主義への全面的な参入は、社会主義イデオロギーを抱えつつピープル=人民が常に搾取・収奪され続ける、という根本的な矛盾を生み、しかもその矛盾は拡大し続けている。

 本報告では、コロナ禍の下で先鋭化した、非西洋社会と西側社会の分断について、「文化」的な差異に起因する特殊性の側面と、グローバル資本主義のあり方に規定された「人民=ピープル」の不在、という普遍的な側面の双方から理解することによって、民主主義などの普遍的な価値観を堅持しつつ、異なる価値観を持った人々との対話の可能性を追求したい。

 

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