2020年12月18日(金)に行われた第3回101号館映像制作ワークショップは、本プロジェクトのアドバイザーである折茂克哉氏(東京大学駒場博物館)による駒場キャンパスツアーに始まった。ツアー参加者は、高原智史氏(EAAリサーチ・アシスタント)、日隈脩一郎氏(EAAリサーチ・アシスタント)、報告者の小手川将(EAAリサーチ・アシスタント)、前野清太朗氏(EAA特任助教)の4名である。正門前に集まった私たちにまず折茂氏が駒場地区の案内図を指して説明してくれたのは、駒場農学校から旧制第一高等学校を経て現在の東京大学駒場キャンパスとなるまでの校地の歴史的な変遷だった。そうした歴史をふまえたうえで、1号館(旧一高本館)、900番教室(旧一高講堂)、駒場農学碑、ファカルティハウス(旧一高同窓会洋館)、駒場図書館前(旧一高寄宿寮跡)、そして101号館(特高館)と周り、大学という場に堆積された時間を各々感じることができた。
一高時代、中国人留学生のための課程「特設高等科」の専用教室として造られた建物である101号館をもとに映像作品を制作するにあたって、駒場キャンパス全体の辿った歴史を知ることは欠かせない作業である。そのために歴史資料を繙くことが重要なのは言うまでもなく、みずからの身体をもって駒場の歴史を経験し、立体的に感じることの重要性を知るというのが今回のワークショップの目的だったと言って良いだろう。
たとえば駒場キャンパスには農学校時代や一高時代のマンホールがいくつか取り除かれずに残存している。また、駒場農学碑は今では背の高い草木に囲まれており、意識しなければ気づかず通り過ぎてしまうような目立たない場所に建てられている。折茂氏によれば、駒場農学碑は以前には藪の中にすっかり埋れていて、もしも新校舎の建造が計画されたら人知れず取り壊されていた可能性があったという。このように細部に注目する視線と歴史を保存しようとする態度は本プロジェクトにとっても重要で、共有しなければならないものであることは間違いない。
また、折茂氏の導きにより時計塔の1号館の、ふだんは閉じられている屋上部に登ることができた。18号館が建てられる前では駒場キャンパスでもっとも高い場所だった地点からの眺望は広く開かれていた。かつて職員室や校長室も置かれていた旧一高時代の本館の最上階には当時の学生たちも訪れていたようで、塗装の剥がれた壁面には1948年8月30日という具体的な日付などの雑多な落書きが見え隠れしている。残存する建築に刻み込まれた歴史を生々しく感じる一つの瞬間だった。
キャンパスツアーを終え、それからリサーチ・アシスタントの3名は、これからどのような映像作品を創ってゆくのかを具体的に構想するためにフィードバックを行った。話し合いのなかで、すでに取り壊された第一高等学校寄宿寮などを念頭におきながら日隈氏から示された「共同体 community」という語を中心に作品のテーマを考える方針に結実した。東大駒場キャンパスにおいていかなる共同体が形成されていたのかという問題について、たとえば現900番教室は一高時代には倫理講堂と呼ばれており、日本独自の倫理を醸成し教育していたという。そのようなエリート意識を備えた愛国的な気風のなかでの日中学生の交流の場として101号館を捉える必要性が示された。また、高原氏がかかわりを持っている詠帰会とコンタクトをとったり駒場博物館に所蔵されている寮日誌を調査したりするなど、一高時代の学校生活を詳細に知るための方法が提起された。年末年始には資料調査を行い、次回のワークショップでは具体的に制作スケジュールを立て、映像の構成などを設計する予定である。
また、髙山花子氏(EAA特任助教)の発案により、本プロジェクトで制作された映像作品を何らかの映画祭に応募することになった。どの映画祭に出品するかは検討中だが、いずれにしても、高い水準の映像作品を創ろうと私たちを奮い立たせる目標の一つとなるだろう。
報告:小手川将(EAAリサーチ・アシスタント)
写真撮影:小手川将(EAAリサーチ・アシスタント)
日隈脩一郎(EAAリサーチ・アシスタント)
髙山花子(EAA特任助教)