9月の始めにサマー・インスティテュートで北京大学を訪問してからちょうど一ヶ月、今度は北京大学の教職員一行を駒場にお迎えすることができました。東アジア藝文書院が展開する教養学部後期課程学融合プログラム「東アジア教養学」は、北京大学とのジョイントプログラムで、毎学期学生を相互に派遣しながら「東アジアからの新しいリベラルアーツ」を探究するためのクラシック読解を中心とした教育を行っています。このプログラムは前期課程に設置されているトライリンガル・プログラム(TLP)の後期課程版でもあり、授業は英語、中国語、日本語の三言語で行われています。
今回お招きしたのは、このジョイントプログラムを北京大学側でコーディネートしている元培学院の李猛院長、孫飛宇副院長、李泊橋副院長、そして北京大学側の同等プログラム「東アジア研究」で授業を担当している法学院の章永楽准教授、また、元培学院の国際化担当職員である漆麗萍さんと劉欣悦さんの合計6名の方々です。このジョイントプログラムは全学の学生さんに開かれていますが、共にリベラルアーツ学部として長い交流の歴史を持つ教養学部と元培学院がそれぞれの担当部局となって運営に努めています。
10月2日と3日に行われた交流では、東アジア藝文書院とジョイントプログラムの現状と未来、双方におけるリベラルアーツと教養教育の歴史と課題について、理論と実践の両方向から突っ込んだ意見交換を行ったほか、孫飛宇さんと章永楽さんの研究発表も行われました。
北京大学と元培学院が最近二十数年の間取り組んできたリベラルアーツ教育は、わたしたちも強い関心を持ってこれまでにも研究してきた「書院」(residential college)を核とする全人教育であり、東アジアの伝統に根ざした21世紀に相応しいリベラルアーツの取り組みとして注目に値するものです。その具体的な内容の紹介は多岐にわたりますので別の機会に委ねましょう。
今回はいろいろな方の機転を利かせつつしかも細やかな配慮のもとで、駒場の日常でありながら、なかなかのぞくことのできない世界に触れることができましたので、関係者へのお礼の意味も込めて紹介しておきます。二つあるのですが、一つは三昧堂です。ここはキャンパス西部にある禅堂です。東アジア藝文書院の柳幹康さん(東洋文化研究所)が学生時代に坐禅のサークルに所属していてここで活動していたということで、今回は柳さんに解説していただくだけでなく、みなで坐禅体験をすることができました。わずか5分間ではありましたが、共に向き合って静寂を共有するというプラクティス自体がわたしたちの交流にとって小さいけれど重要な経験になったと思います。もう一つは柏蔭舎です。これはキャンパス東側の通称一二浪池のほとりにある静かな森に佇む茶室で、今回は東大茶道部の皆さんがとても手厚く歓迎してくださいました。たまたま駒場祭の練習をなさっているところにわたしたちが押しかけてしまったのですが、練習相手にどうぞという何とも粋な配慮で、茶席に飛び入り参加させてもらったのです。いまは本場の中国でとうに飲まれなくなってしまった挽き茶が行為芸術として発展した近代茶道を駒場の学生さんたちが自ら学び行っているというのはたいへん頼もしいことですし、これもまた、東アジアのリベラルアーツが目指すべき方向を先取りしながら体現するものとしても、元培学院の先生方に体験していただけたのは意義深いことでした。学生さんのお名前は敢えて挙げませんが、対応してくださった皆さん、ありがとうございました。