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2023.06.01

悦びの記#12(2023年5月29日)

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新しい年度を迎えて早2ヶ月、季節外れの台風の影響か、それとも梅雨が早まっているのか、今日はじめじめした蒸し暑い陽気の中で一日を過ごしました。感染症を引き起こす未知のウイルスの脅威に全人類がさらされて3年、ようやく平常な生活がもどりつつありますが、気候変動の影響が年ごとに強く実感されるようになる趨勢はむしろ速まり、そして、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとして、世界には新たな不安が醸し出されるようになりました。

こうしたなかで、わたしを悦ばせるのは国際的な往来の再開です。新年度来、EAAでは次々と海外からの客人を迎えています。訪問研究者のユク・ホイさんや金杭さんを皮切りに、マルクス・ガブリエルさんがThe New Instituteやボン大学の同僚を引き連れてEAAとの大がかりな交流に訪れました。その中には昨年までEAAで特任准教授を務めていた佐藤麻貴さんの姿もあり、うれしく懐かしい再会を果たしました(佐藤さんには随所で大きなサポートをしてくださり、この場をお借りして感謝したいと思います)。また、わたしとは戴震研究でつながりができたカリフォルニア大学サンタクルーズ校の胡明輝(Hu Minghui)さんの訪問もありましたし、昨日はFISP(哲学系諸学会国際連合)の国際シンポジウムがあり、前から一度お会いしたいと思っていた復旦大学の孫向晨さんや、北京大学副学長の王博さんと出会うことができました。個人的には、柄谷行人さんのバーグルエン哲学・文化賞の授賞式で清華大学の汪暉さんらに思いがけず再会できたのもうれしいことでした。また、かつて駒場で教鞭を執っていた章炳麟研究の仲間である林少陽さん(澳門大学)にも渋谷で再会することができました。そうそう、UTCP以来しばしば噂に聞いていたブルガリアのボヤン・マンチェフさんにも偶然オフィスでお目にかかりましたね。噂通りの素敵な方でした。

 わたし自身は授業もあれば学内各種業務もある上、体力がもはや気持ちに追いつかなくなってしまいましたので、海外に出られる機会は決して多くありません。ですから、こうして次々に訪れてくれる方々(皆さん駒場を慕って来てくださる!)の存在はうれしい限りです。「朋あり遠方より来たるまた楽しからずや」です。また、FISPのような国際的な交流の場に出ると、新たな出会いが必ずあり、しかもそうした方々とのあいだに共通の知り合いがいたりするのを知ると、わたしがここでこうしていることが決して孤軍奮闘ではないこと、「文の共同体」が現実に機能していることを実感することになります。

 さらに悦ばしいことに、こうした出会いには、次なる研究協力の話が必ずと言っていいほど随伴してきます。FISPのレセプションでも申し上げましたが、EAAのミッションは、まさにこうした研究の国際的なネットワークを広げていくためのプラットフォームになることにほかなりません。これは、今年度とくに強調しながら進めている「空気の価値化」に対するEAAならではの答えでもあるとわたしは思っています。空気は単に物質であるのみならず、わたしたちが生きている社会や文化を大きく包み込む存在の条件です。それをよりよいものにしていこうとすることは、物質としての空気の質を改善することのみならず、それ以上に、わたしたち——地球全体に広がるわたしたち人類——相互のヒューマンな関係を豊かにしていこうとする努力そのものにほかなりません。わたしたち学者は、学問の名においてそのような関係を構築して世界の「空気」そのものを作っていくことが可能であり、可能である以上、それを行わなければなりません。その先にこそ、平和で豊かな世界は開けてくるにちがいないからです。6月以降もEAAにはさまざまな人々が訪れる予定です。発足以来4年が過ぎ、ようやく今年からEAAがその本領を発揮すべき環境は整ったと言ってよいでしょう。

 なお、サムネイルの紫陽花は101号館東側土手で531日に見つけたものです。

 

石井剛(EAA院長/総合文化研究科)