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2025.03.19

【報告】Winter Institute 2025 “Techne and the Human Sciences in the 21st Century”

202517日から10日までの四日間、Winter Instituteが東京大学伊藤国際学術交流センター中会議室にて開催された。Winter Instituteは、中島隆博氏(東京大学)と張旭東氏(ニューヨーク大学)のリーダーシップによって2016年に開始され、今年で9年目を迎えた。現在ではポール・ピカリング氏(オーストラリア国立大学)、マルクス・ガブリエル氏(ボン大学)を加えたボーディングメンバーによって運営されている。この冬、上記四大学から教員・学生合わせて総勢29名が参加した。COVID-19後初の開催となった今回、皆が一堂に会して濃密な議論を共にした四日間は、参加者にとって格別の経験となった。

Winter Instituteでは毎年一つのテーマを掲げ、それに即して参加者が各自プレゼンテーションを行ってきた。哲学・文学・歴史学・社会学など人文社会科学を中心に、さまざまなディシプリンを駆使しながら一つのテーマについての理解と議論を深めることを目的としている。今回のテーマである「Techne and the Human Sciences in the 21st Century21世紀におけるテクネーと人文科学)」は、昨今目覚ましく発展した生成AIを筆頭に、私たちの生存のあり方を根本から変革する科学技術を、人文科学の観点から問い直すことを目的として選定された。各プレゼンテーションは、哲学・文学理論・メディア研究・工学等々、多岐にわたる見地から展開されたが、共通した問題意識として、昨今の政治的分断とそれをもたらしている情報技術をどのように捉えるべきか、及びそれによって生じる人間の存在様式の変化をどのように考えるべきか、といった問いが提示された。

今回のテーマ「Techne and the Human Sciences in the 21st Century」をもとに、伊野恭子氏(EAA学術専門職員)が生成AIを利用して作成したロゴ。

四日間、午前中から夕方まで濃密な議論を皆で行うことは生やさしいことではなかったが、学問的背景も文化的背景も異なる者同士が英語でコミュニケーションを行うことで、共通の問題意識を確認し、それをそれぞれの場所に持ち帰るというこの取り組みは、今後も継続するべきだと感じた。英語を共通言語とすることは、しばしば英語帝国主義として批判されるし、実際にそのような側面もあることは否定できない。だが、英語帝国主義は、このような場を繰り返し実践する中で、自己瓦解するモメントが含まれていることも確かだ。というのも、それぞれが操る英語は決して同一のものではない以上、英語は複数化され、Englishは必然的にEnglishesとなる。それは、アクセントや文法が複数化されるというだけでなく、複数のものの見方が英語の中に書き込まれていくプロセスでもあるのだ。

学際的な研究がアジアの大都市である東京において英語でなされることの意義は、英語帝国主義——英米をヒエラルキーの頂点とした「正しい」英語によって行われる権威的な学問を最も優れたものとする立場——に、思いもよらぬ角度からメスを入れ、物事を意外な角度から検討する余地をこじあけることにあるだろう。東アジア藝文書院が、そのような取り組みを実践する一つの場であるための努力を諦めてはいけないと、あらためて実感した四日間だった。

※三日目の午後にはエクスカーションで上野の東京文化財研究所・東京国立博物館を訪れました。大勢の見学を快く受け入れ、ご案内くださった関係者の皆さまには、あらためて深く御礼申し上げます。

報告者:崎濱紗奈(EAA特任助教)