2020年11月27日(金)、第8回「UTokyo-PKU Joint Course」が開催された。今回は橋爪真弘氏(東京大学国際保健政策学教授)を講師に迎えた。主題は、現在世界的に最も注目されているトピックの一つである地球温暖化が、人類の健康にもたらす影響である。同時に、公共衛生との繋がりから、目下流行中の新型コロナウイルスも議論に上がった。
事前に配布された授業コンテンツにおいて、橋爪氏は、地球温暖化はもはや未来のことでなく、すでに進行中の事件だと述べる。そこで提示されたのが「mitigation(緩和)」と「adaptation(適応)」の対策であり、さらに、「co-benefits」という温暖化と公共衛生の双方を改善する政策アプローチがあることを紹介した。
印象深かったのは、温暖化がもたらすマラリアなどの疾病リスクの増加を被るのは、温室ガスの主な排出地域ではないアフリカなどの発展途上国家であることだ。南北の格差問題は解決されるどころか、より深刻化する傾向にあると言える。
ディスカッションでは、学生側から、データに反映されている数値の読み方、専門家と公衆とのコミュニケーションの困難、新型コロナウイルスによるドメスティック・ヴァイオレンスや自殺率の増加についてなど、様々な視座からの質問が挙がった。例えば、各国政府によるロックダウンは多くの人々の医療施設へのアクセスを切断してしまうという質問に対し、橋爪氏は、自分が現在関わっている日本における「excess death(超過死亡)」の研究データを紹介して応じた。
新型コロナウイルスのダメージは罹患者のみでなく、私たちの目に直接映らないところにも及ぶのである。世界中の医療関心が新型コロナウイルスに集中する中、本来マラリアに向けられていた注意力が以前と比較すると下がってしまっていると橋爪氏は指摘する。また、国によって様々なコロナ対策があるが、経済停滞は死亡率を増加させる原因の一つであるため、政治家は経済問題にも気をつかねばならないという現実に言及した。
地球温暖化、そして目下進行中のパンデミックは、グローバルレベルの挑戦である点で共通している。人間の活動は、疾病がもたらす負の影響にどう立ち向かうべきか?ポストコロナの時代を見据えつつ、講師と真剣に意見を交わす学生達の言葉が印象深い講義であった。
報告者:張 瀛子(EAA リサーチ・アシスタント)