2024年6月27日、第22回藝文学研究会が東京大学東洋文化研究所第一会議室にて開催された。今回は、伊丹(報告者、EAA特任研究員)による「医学と文学との狭間―「人面瘡」を通してみた医事説話―」という題目の発表であった。
報告者は、まず、日本古典文学における病気や医家など医学に関する説話という、これまでの研究について紹介した。日本古典文学の中には、医学を主題とするものが多数見受けられるが、先行研究では、こうした記述は医事説話と命名された。医事説話という、当時の知識人によって著された古典文学における医学関係の記録は、あくまでも想像・虚構であろうか。あるいは、何かの医学知識に基づいて作成されたものであろうか。本報告は、体にできた人の顔のような瘡、「人面瘡」という病気の事例を取り上げて説明した。
人面瘡とは何か。現代の漫画作品などにもしばしば話題として取り上げられる人面瘡は、身体にできた腫れ物が、人の顔のような形になり、物を食べたり言葉を喋ったりする、不思議な病気のこととされている。日本古典文学においては、人面瘡に関する記載が数多く確認できるが、その中、一番知られているものは、おそらく浅井了意の『御婢子』(1666)における「人面瘡」の話であろうと考えられる。こうした人面瘡の話に対し、病気という視点で検討したところ、先行研究が指摘している出典では説明しきれないところがある、ということが判明した。そこで、報告者は、人面瘡説話の全体像を正確に把握するために、まず人面瘡説話を整理し、仏教の書物にも人面瘡説話があることを提示しつつ、その重要性について考察した。また、中国と日本の関係資料を調査し、挿絵などにも留意しながら、医学書における人面瘡関係の記録を確認し、様々な人面瘡説話の要素を取り入れた医学書における人面瘡への認識は、浅井了意の「人面瘡」をはじめとする古典文学や、日本における人面瘡のイメージ形成と理解に影響を与えたと推測された。最後に、人面瘡を例として、古代における文学と仏教と医学との関係は、いかに緊密にあったのか、ということを確認し、本報告で取り上げる話題を論文にまとめたものは、第二回説話・伝承学会奨励賞を受賞したことも報告した。
質疑応答では、なぜ宋代になると、仏教の書物には人面瘡の話が見られるようになったのか、本草書などの医学書における記述や後世における議論、医学書における人面瘡の位置づけ、今後の研究などといった質問が出され、活発な議論が行われた。
報告者:伊丹(EAA特任研究員)