2024年5月23日、東京大学駒場キャンパスの三昧堂にて、第21回藝文学研究会が開催された。今回は、東京大学人文社会研究科・インド哲学仏教学研究室の蓑輪顕量氏をお招きして、「仏教の瞑想とマインドフルネス」という題目でご発表をいただいた。
今回の藝文学研究会は、東京大学駒場キャンパスの銀杏並木の西の端にある禅堂、三昧堂で行われた。旧江戸城(現皇居)にあった建物を1940年に移築したもので、厳かな由緒あるところである。
マインドフルネス瞑想は、最初、ベトナムの仏教者であったティクナットハーン師(1926–2022) が、仏教の瞑想をマインドフルネスとして、ヨーロッパやアメリカ世界で広めたところから市民権を得るようになったと考えられる。そして、アメリカのマサチューセセッツ大学医学部の心理学教授であったジョン・カバットージン氏(1944–現在) が仏教の瞑想を体験し、その身心の観察方法がストレスの低減に役立つと看破して、独自にマインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)として社会に紹介したところから一躍世界に広まったと指摘される。
まず、蓑輪氏は、仏教の瞑想について、その基本は念処、即ち、注意を振り向けて十分に理解、把握することであると説明した。Satipatthāna(念処)や『スッタ・ニパータ』のアッタカ・バッガ(八詩節よりなる章)における「つねに意識していなさい(sadā sato)……虚妄分別はなくなる」という偈を引きつつ、実際にしていたことは「ただ単に行動を意識、すなわちしっかりと十分に把握すること」のみと仏教の瞑想はとてもシンプルな表現だと指摘した。次に、蓑輪氏は、初期仏教の瞑想の大きな流れについて紹介した。最初の準備行では、集中力を養って、マインドワンダリングが少なくなる。また、サマタ(止)行では、準備行で築いた集中力をもって一つの対象を気づき続けていく、把握の力と分割の力が養われる。最後のヴィパッサナー(観)行では、準備行とサマタで築いた集中力・把握力・分割力を用い、あらゆる行動を気づいており、自動思考の働きが抑制され、智慧が生じるものとされている。最後、蓑輪氏は、座る瞑想と歩く瞑想をそれぞれ紹介し、そのやり方や効果、コツなどを詳細に説明した後、参加者を指導しつつ、座る瞑想と歩く瞑想を実際に体験した。
質疑応答では、瞑想にはどれくらい時間が必要かという質問に対し、蓑輪氏は、東南アジアと中国などの事例を紹介し、一日10分から始まり、20分、30分など時間を少しずつ増やすことで、効果が期待されるものと解説した。また、瞑想の姿勢や効果、瞑想する際の眠気などについての議論が盛り上がった。
報告者:伊丹(EAA特任研究員)