2024年4月17日、東洋文化研究所およびオンライン(Zoom)にて、第19回藝文学研究会が開催された。今回は黄昱氏(立正大学経済学部特任講師)から「怪異と医学:中国と日本における「人が水と化す」説話の展開」というタイトルで発表をいただいた。
「人が水と化す」説話は、中国の『本草綱目』や『春渚紀聞』、『太平広記』、『夷堅志』などにみられ、唐宋の時代にすでに煉丹術の話として成立している。これらの説話は日本で受容されて、江戸時代の様々な書物で登場している。林羅山『怪談全書』や、勧善懲悪の本である『堪忍記』など、東北、中国、九州地方でも昔話の形で類話が確認できており、日本列島にかなり広がった。中国の説話は怪異譚と煉丹術の伝承としての両面性が見られ、草が金属を黄金に変えることができる特性と、人の血肉を溶かす毒性の両方を強調している。それに対して日本では、最初からこの説話は怪談として受容され、さらに笑話、落語というエンターテインメント性をもつ話として広く流布した。
発表の後半で、黄昱氏はご自身が携わった、ないじぇる芸術共創ラボという古典籍と専門家が形成した知を研究者コミュニティの外側に開放する取り組みを紹介した。
討論では、『長谷雄草紙』に見られる女性が水と化すエピソードを、中国の古典籍に見られるエピソードと同じ系統のものと考えてよいかとの質問があがった。また、日本での受容の地域差や、『長谷雄草紙』の内容の解釈についても質問が出された。
中国説話の日本での受容と、古典の再生を推進する現代の取り組み。一見無関係のことは、実は深く通じているかもしれないと考えさせられた会であった。
報告者:黄霄龍(EAA特任研究員)
【報告】共生会議(バーグルエン中国センター主催・EAA共催)
悦びの記#25(2024年4月28日)