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2023.03.15

【報告】『鳥の歌、テクストの森』刊行記念トークイベント「石牟礼文学と自然風景をめぐって」

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2023年3月11日(土)16時より、広島県尾道市のGallery Cafe ULTRAで、「石牟礼文学と自然風景をめぐって」と題し、わたしの『鳥の歌、テクストの森』(春秋社、2022年)の刊行トークイベントを行う機会にめぐまれた。はじめての一般書で、ありがたいことに新聞等で書評を少なくなく頂戴したいっぽうで、学術書の場合の合評会のような場をなかなか設けることができないでいたところ、石牟礼道子と水俣病事件についての関心が重なった、尾道にスペースをもっているという中尾浩治さんから、なにかやらないかというお話をいただき、今回の企画が実現した。

『苦海浄土』に描かれる不知火海や椿の樹木のある風景、静けさが、石牟礼の他作品と共通して浮かびあがり、なかでも幼年期の物語である『椿の海の記』にひろがる海辺の世界が基盤にあることを話した。そのうえでもう一度『苦海浄土』の描写に戻り、どのように人間の悲哀が書かれているのかを、鳥の歌というよりは啼かない鳥の形象に着目してお話した。自分自身は最初に読んだ石牟礼作品は句集『天』だったので、テクストが詩に近いことを石牟礼の詩に曲づけられたじっさいの歌と共に聴きながら確かめる時間を持つことができ幸甚だった。聴衆は10名弱だったが、近隣在住の方々や尾道市立大学の美術科卒業生の方々が参加してくださり、民俗学における鳥や、TwitterのようなSNSでは欠落してしまうグルーヴ、神話と筆記の問題について、意見交換することができた。いただいた感想、ご意見をつぎの仕事に生かしたい。ULTRAの中尾浩治さん、大塚由美さん、坂本拓也さんにはたいへんお世話になった。貴重な機会をいただいたことに感謝したい。海と山に囲まれた尾道の特異な地形には歴史建築が凝縮されており、フェリーでいける百島をはじめ、学術とコミュニティ構築をめぐって学ぶことが多いと感じた。近いうちに、同僚や学生とともに尾道を再訪したいと思う。

報告:髙山花子(EAA特任助教)
写真:坂本拓也(Gallery Cafe ULTRA)