ブログ
2021.03.19

ソウル大学日本研究所セミナーに参加して

People

2021年3月9日にソウル大学日本研究所の「日本専門家招聘セミナー」に招かれる貴重な機会を得て、報告者は研究発表を行った。本セミナーは国内外の日本専門家を招き、最先端の研究動向を伺うことを目的として、247回を迎えるほど、長い期間に亘って開催されてきた。報告者もかつて本セミナーを準備・補助・運営していた院生という立場だったが、こうして研究発表ができるようになったことが感慨深かった。韓国では3月に春学期が始まってお忙しい中、先生方や学生さんが多く参加してくださった。参加者の中には、2019年に日本に滞在してEAAにも縁があるパク・チョルヒ氏(ソウル大学教授)もいらっしゃって、紹介を兼ねてEAAの話もすることができた。ソウル大学日本研究所は人文学を中心に日本について多角的に研究・発信しているので、今後EAAとの交流が期待される。

さて、本セミナーで報告者は『東洋文化研究所紀要』(179)に投稿した論文「日本政治における保守の変容への一考察:1990年以降の「保守市民社会」の台頭に着目して」について報告した。冷戦終了から30年が経った日本と世界の中で一つの特徴として取り上げられるのは、歴史修正主義や極端なナショナリズムを強調する政治・社会勢力(集団)の台頭であるだろう(そこから右傾化議論が生まれたのではないか)。こうした新しい政治・社会現象をどのように呼ぶべきか、という用語(概念)の問題を切り口に日本政治・社会研究における用語のぶれを欧米の研究と比較し検討した。

保守か、右翼か、右派か、革新か、リベラルか、といったイデオロギーは、有権者にとって複雑な政策や政党の位置を理解し要約する手がかりとなり、また、有権者と政治エリートとのコニュニケーションの体系でもあると言えよう。その重要性を考えるとき、1990年代以降に日本政治社会に台頭した右傾化勢力をどのように呼ぶべきかという議論は重要であろう。しかし、いわゆる極右政党が躍進している欧州では、「extreme right」や「radical right」といった用語の議論が活発になっていることに比べ、日本政治の研究においてこうした用語・概念の問題は多く議論されてこなかった。報告者は右傾化勢力が既成保守政党の自民党に収斂される点と、自民党と連携してアドボカシー活動を行う点に着目して、「保守市民社会」という用語を提案している。「保守」と「市民社会」はそれぞれ長らく非常に複雑な議論を踏まえて成り立っている用語なので、それに関する緊張が生じるのは当然である(「市民社会」は長らく左派勢力を形容する際に用いられてきた)。しかし、EAA院長の中島隆博氏が提唱しているように、「複合語としての可能性」として新たな用語で社会現象を理解するのは試みる価値があるのではないかと考えられる。「保守市民社会」という用語を通して、いわゆる右傾化を支える社会集団と自民党の連携を理解し、その過程で日本政治における保守の内容に変容が行われたことが理解できるのではないか、報告者は主張した。

参加者の先生方からも、この緊張関係を内包した用語や日韓関係における市民社会の役割、日本の右傾化が海外や韓国でどのように理解されてきたかについて貴重かつ真摯な質問やコメントをいただいた。久々に韓国国内での日本への理解と研究に接し、交流を行った時間で、報告者にとっては感謝の念の絶えない非常に有意義な時間であった。こうした機会を設けてくださったソウル大学日本研究所とEAAに改めてお礼を申し上げたい。

報告者:具裕珍(EAA特任助教)