11月25日に、2022年度第4回「部屋と空間プロジェクト」は「本郷を歩く」というテーマで行われた。題名が示す通り、東京大学本郷キャンパスのツアーである。講師は一色大悟氏(東京大学文学部インド哲学・仏教学研究室特任助教)、参加者は執筆者を含めてEAA本郷オフィスのメンバーであった。銀杏の季節、晴れわたる天気に恵まれ、ツアーは東洋文化研究所をスタートした。
本郷キャンパスは江戸時代に加賀藩邸が置かれた地としてよく知られるが、実際にどこまでが元来の藩邸の所有地で、どこからがのちに拡張された部分なのか、また普段何気なく歩いていたところが元々は主要道路や、川、正門ないし便所(下記の写真をご参照!)であったことは、ほとんど知られていないであろう。歩くごとに驚きの情報が詰まっていた一色氏のガイドのなかで、執筆者の視点から感想二、三点を取り上げたい。
まず、弥生門に入り理工館3号館の左手へ向かう、執筆者がほぼ毎日通っている坂道は、元来、三四郎池から流れてくる川であった、と知って興味深く思った。次に、総合図書館1階の入って左手にある閲覧室は、大日本帝国が遂行する戦争(日清戦争、日露戦争、日中戦争、アジア太平洋戦争)で、戦場に送られて犠牲になった学生らの慰霊室として使用された過去があったことに驚いた。その慰霊の意を込めて、現在の法文館3号館の地面には、実は曼荼羅模様が施されている箇所がある。法文館3号館の図書室や、独学研究室図書館に多くお世話になった執筆者にとって、多くの新しい発見があった。
数多くの建築物や設計の変更は、やはり戦争と関東大震災が契機となったケースが多かった。留学生である執筆者は、これがいかにも日本の近代史らしい部分であると深く感じた。また、前回の「部屋と空間プロジェクト」(こちらを参照)では都市を知る・理解するために「歩く」というアプローチが大事だ、ということが論じられたが、今回はまさ にその実践であった。実際に身体を動かして歩いてみたときに、違和感や不自然な断絶を感じた道は、実はかつて別の方向へと導かれていたものであったことがわかった。そこに含まれた歴史的変遷は、身体的感覚の不自然さを通して我々に語りかける。今回の講演を通して、今後キャンパスに対し古くて新しい視点を持つことができるであろう。
なお、本ツアーは、東京大学ヒューマニティーズセンター企画研究「学術資産としての東京大学」の成果を参照したものである(Humanities Center Booklet シリーズはこちらへ)。
報告:丁乙(EAA特任研究員)