EAAの特任研究員に着任したのは、コロナ禍で一年以上都市封鎖が続いたロンドンから帰国した後のことだった。高校卒業以来、博士後期課程を除いて学究生活の大半をイギリスで過ごした私にとって、EAA、そして駒場での日々は、いままで触れたことのない異なる文化や観点、言語・言葉との出会いの連続だった。日本の学術環境、テクストの読みの作法の違い、東アジアの文脈に関わる研究やパースペクティヴなど、新たな他者との出会いや刺激に満ちた日々を送ることができた。
EAAでは「学術フロンティア講義」、「現代作家アーカイヴ」をはじめ様々なイベント・サポートに携わり、それらの業務を通して、教育・研究企画の舞台裏を垣間見る機会を得た。また、「部屋と空間プロジェクト」、「批評研究会」では、今まであまり交流の機会のなかった分野の先生方から、異なる分野の多様な観点を学び、自分自身も多元的な見方の重要性に気づくことができた。
この一年で特に印象深かったのは、EAAグローバル・レクチャーを企画・運営したことだった。この企画は、複数の文化・言語・分野との接触・交わりを通して様々な問いを探究してきた研究者を海外から招き、ゲストが「今何を問いかけるのか」をテーマにしたものである。学生や研究者たちが、対話を通じて異なるパースペクティブに出会い、新たな可能性を切り拓く機会になればという思いから企画した試みであった。お招きした先生方は、様々な分野・言語・文化・学術環境を経験したことのあるユニークな経歴の持ち主ばかりである。
充実した講演内容はもちろんのこと、私が何よりも刺激を受けたのは、企画の準備段階などで聞き知ったゲストの先生たちの研究者としてのこれまでのあゆみや底しれぬ探究心、そしてその原動力だった。とりわけ業績リストには書かれていない彼らの自分史を知ることができたのは、EAAの企画があってこそ初めて知り得た姿であり、博士学位論文提出後、今後何年、何十年先の自分を支えていくような軸を模索し続けている私にとって、先生方の研究者としてのゆき方そのものが大きな刺激となった。今振り返るとEAAで過ごしたこの一年は、これまでの自分自身、現在の「私」を見つめ直すとともに、これからの自分が学究人としてどう在り、どうしていきたいのか様々に考えを巡らせる大切な期間であったように思う。
コロナ禍という未曾有の危機は私たちに様々な課題を突きつけた。だが一方で、EAAという豊かな学術環境との出会いに恵まれ、また未だ断続的ではあるものの徐々に取り戻しつつある対面の場や時には時差・距離を超えたリモート環境において、研究や学問について語り合い、学びを分かち合うことの悦びや素晴らしさを噛み締めることができたように思う。
EAAで過ごした時間により、私が見渡す風景は確実に変わった。この一年で得た経験や出会いを糧とし、異なる言語・文化・学術背景を持つ研究者や学生たちの架橋となれるよう、力を尽くしていきたい。最後に、このような充実した時間を与えてくださったEAAのメンバーの方々、そしてEAAに関わる皆様に心から感謝したい。