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2021.03.31

修了生挨拶 第1期生 孔德湧

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修了生挨拶
(2021年3月16日開催 第1回「東アジア教養学」修了証授与式に際して)

EAA「東アジア教養学」プログラム第1期生 孔德湧

 

こんにちは、孔德湧です。

この度はEAAの東アジア教養プログラム修了第1期生になれたことを心より光栄に思います。

せっかくお時間いただいたので、EAAを通じて僕が学んだことについて話したいと思います。これは本当に色々ありますが、1つ挙げるとすれば、それは揺れ動くことの大切さです。どういうことか。

多くの方がご存知のように、僕は中国人の両親をもつ中国系日本人です。日本で生まれたのちに、中国で暮らし、その後日本に戻りました。日本にきた当初多くのことに戸惑いました。文化、政治をめぐる報道など多くの点で日本と中国の違いを感じ、そして、日本だと中国という存在があまりよく受け止められていないのではないかと感じました。こうして僕の人生はこの不安によって大きく彩られることになりました。この不安を無理して抑え込もうとすることも多々ありました。

大学に入ってからも、多くの不安に苛まれました。日本と中国をめぐってのみならず、いろんな価値観や考え方に出会って、その度に自分の在り方について葛藤しました。それに加えて、何かを成さなくてはいけない、そういった焦燥感が自分の中にありました。そういった焦燥感のもとに、いろんな活動に参加しましたが、静かに向き合う時間が必要なんじゃないかという思いが心のどこかにありました。

僕自身は事情があって大学を5年間過ごしましたが、5年生になるに当たって、折角だから何か学びたいと思い、その時に副院長の石井先生にEAAを紹介いただいたので、これはいいと思って入りました。

EAAでいろんな古典を読んで感動したのは、僕が悩んでいたテーマに対して、先人たちが鮮やかな思考で見事に方向性を示してくれていることです。その一方で、優秀な先人たちですら、どこかその思考に矛盾があったり、もしくは結果として悪を正当化してしまったりすることがあります。例えば、戦前の「近代の超克」や、ナチスを支持したカールシュミット、ハイデガーなどがいい例だと思います。

ここで思ったのは、優秀な先人たちでさえ正解を出せないってことは、自分も簡単には出せないだろうと。そして、いろんな不安に絶えず揺れ動きながら、それに向き合うことの大切さを知りました。そのために、学問を学ぶ、教養を身につける、ということが本当に大切です。当たり前ですが、勉強はただの受験のためのツールではない、そのことを本気で実感しました。

最近SNSを見ると、どうも人間は理性的に考えることよりも、何かを信じ込むことの方が多いのではないかと感じます。不安に揺れ動きながら、それに向き合う作法を身につけることの大切さを改めて私たちは認識しなくてはならないと思います。

最後に、私が好きな言葉で本答辞を締めたいと思います。それは國分功一郎先生の『暇と退屈の倫理学』に登場する「生きることはバラに飾られねばならない」という言葉です。ご存知のように「パンとサーカス」という言葉がありますが、おそらく人生は衣食住を意味する「パン」や気晴らしのための「サーカス」だけで十分なものではないはずです。何かもっと深い感動を与えるような「バラ」も必要だというのが、この言葉の意味するところだと思います。卒業して社会人になってしまうということで、今後未知の挑戦や不安に数多く出会うと思いますが、常に自分の人生を飾るような「バラ」を探し続けたいと思います。そして、このような思いに至れたのはひとえにEAAでの1年間があったからでございます。

この場をお借りして改めてEAAの先生方、TARAの皆様方、プログラム生、スタッフの皆様、全ての方に深く御礼申し上げます。本当にありがとうございました!

写真撮影:立石はな(EAA特任研究員)