修了生挨拶
(2023年3月22日開催 2022年度「東アジア教養学」修了証授与式に際して)
EAA「東アジア教養学」プログラム第2期生 熊木雄亮
日差しが日一日と暖かさを増し、春の訪れを感じる季節となりました。本日は皆様お忙しい中修了式の挙行いただき誠にありがとうございます。私からは、この場をお借りして、EAAでの時間を振り返りながら、これからの自身の目標を皆様にお約束できればと思います。
「30年後の未来を考える」というのが、私が初めて参加したEAAの授業テーマの一つでした。当時はコロナ禍の中で半年ぶりに大学で対面講義を受け、優秀な先輩や同輩から多くの刺激を受け大変嬉しかったのを今でもはっきりと覚えています。この授業のテーマ「30年後の未来を考える」というのは、学術フロンティア講義「30年後の未来へ」を発端として当時私が参加したsummer instituteでも触れられた議題だったのですが、私は最近このテーマについて考えを巡らすことが増えました。
私の東大在学期間はたった4年間でしたが、その間にも多くの出来事がありました。衛生面では、コロナ危機という感染症が歴史的な出来事だったのは言うまでもありません。また技術面でも、コロナに付随してweb会議やオンライン授業、仮想空間など、オンライン技術が日常生活に急速に浸透しました。政治面でもアメリカのトランプ前大統領やブラジルのBolsonaro大統領、イギリスのBrexitに見られるような、グローバル化の減速と自国第一主義の台頭、一国内の分断を感じることが増えました。さらに安全保障面で言えば、ウクライナ戦争は安全保障の根底を変えてしまったと言えます。
私自身、小学生や中学生の頃は時代の流れや方向性というものを感じることがあまりありませんでした。10年ちょっと生きただけの子供なら、それが当然かもしれません。しかし、長く生きている方ほど当たり前に感じていらっしゃるとおり、私たちの世界は常に変化しています。別に私の大学在学中だけが激動の時代だったわけではなく、私が生まれてから大学に入学するまでにも多くの変化があったのだと、今振り返れば理解できるようになりました。2001年の911テロ事件が世界中の航空機や空港に与えた影響、2007年のiPhoneの登場が日常生活や社会の仕組みに与えた変化、2011年の東日本大震災が日本や世界の災害危機管理に与えた衝撃など、挙げればキリがありません。
そういった変化を念頭に置くと、今から先30年後の未来に思いを巡らせることは、極めて有意義なことだと気づきます。そこで、私は30年後の未来に向けて、自分が取り組みたい目標を、私自身について、そして私の周りの世界についての二つに分けて紹介できればと思います。
まず私自身について、これからも自己に対する投資を惜しまないということです。ここで投資というのはお金のことだけでなく、時間のことも意味します。例えばEAAで時間を過ごしたことは、自分にとって非常に価値ある投資だったと思います。EAAに影響されなければ、いわゆる純ジャパの私でも英語や中国語を少しでも習得できるかもしれないと信じて懸命に努力することもなかったかもしれません。EAAの授業で扱った書籍やそこで叙述される先人の知恵や思考も、EAAに参加していなければ一生出会うことがなかったでしょう。そしてEAAで出会った先生方やスタッフの方々、先輩や同輩、後輩というのは、本当に貴重な人間関係です。自分がEAAを始めとして東大で様々なスキルや考え方を習得できたのは、そういった学びに全力で自分の時間を投資し、また素晴らしい教育空間や人間関係という環境に幸いにも恵まれたからです。30年後の未来がどうであれ、自分自身はこれからも学びに惜しみなく投資し、また自分に巡ってきた環境を逃さないようにすることで、30年後の未来に他人や社会に価値を提供できる人間になりたいと思います。
そして次に私は周りの世界について、歴史観に基づいて本質を捉えるものの見方を体得したいです。30年後の不確かな未来を考えるとき、私はEAAで学んだことに大きな価値を感じます。コロナの話に戻りますが、当時一部のメディアがコロナについて過剰に報道して大衆の危機を煽っていたように感じます。しかし、人類はかつて幾度かパンデミックを経験しており、その度に人類は克服してきました。コロナについて考えるとき、取るに足らない世間のノイズから影響を受けるのは有意義ではありません。私は、かつての似たような歴史的事例やその当時の人々の声を学ぶことや、枝葉末節を取り除くと今の社会は結局本質的に何が変化していて何が変化せずにいるのかを考える力を培っていきたいと思います。EAAの授業で行ったような、過去の先人や今の学者のテキストを読み解くという訓練は、歴史観を培ったり本質を探ったりする上で重要だと感じます。私は正直EAAでは読書量が少ない人間だったと感じます。今後、読書を始めとした学びにより一層励み、歴史観に基づく本質の思考力を培いたいと思います。
最後になりますが、私がEAAをはじめとして東京大学で勉学に励むことができたのは、本当に恵まれたことだったと思います。大学でもっとこうすればよかった、こんなことができたらよかったと思うこともあります。しかしそんな私をいつも受け入れ、学びの場機会を与えてくださった先生方、スタッフの皆様、現ユース生のメンバー、そして私よりも先にEAAを旅だった先輩方や同輩に改めて感謝の気持ちを述べまして、私からの答辞とさせていただきます。ありがとうございました。