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2025.03.17

【報告】東アジアの都市文化と「関係性」

3月10日(月)、東京大学駒場キャンパス101号館EAAセミナー室にて、国際シンポジウム「東亞都市文化與“關係性”(東アジアの都市文化と「関係性」)が開催された。本シンポジウムは、3月11日に開かれる王欽氏(東京大学)の新刊『「零度」日本:陷入“关系性贫困”的年轻一代』(北京大学出版社、2025)の討論会と連続して開催されており、日本の都市文化と人々の「関係性」に関する王氏の議論を踏まえつつ、視点を東アジアの各都市に広げ、都市文化と「関係性」について検討することを主旨としている。

初めに、石井剛氏(東京大学)より開会のことばがあった。石井氏は、王氏が論じた「關係性貧困(人々の関係性が薄くなること)」の問題に触れ、「関係性」とは単に回復を目指せばよいのではなく、従来の「関係性」の捉え直しや、別の「関係性」への転換など、柔軟に考えることが重要であり、本会が「関係性」を再考する出発点になってほしいと述べた。

続いて羅崗氏(華東師範大学)が、「“關係性貧苦”與新自由主義人格的構造及其不滿」(「関係性の貧困」と新自由主義的人格の構造およびその不満)と題して報告を行った。羅氏は、上海文化を切り口に、新自由主義によって形成された現代の中国の若者たちの意識について分析し、さらに近年中国の若者がよく使う「卷」(競争に否応なく巻き込まれること)や「躺」(競争を避けて欲張らず、頑張らないこと)という言葉には、その意識が反映されていると論じた。

次に、陳学然氏(香港都市大学)は「香港文化的前世今生:人物、機構與歷史景觀」(香港文化の前世と今世:人、組織と歴史的景観)をテーマに、香港の宋皇臺史跡の事例を取り上げて報告した。宋皇臺は南宋最後の皇帝が元から逃れる途中で訪れたとされる史跡である。陳氏は、宋皇臺が香港の歴史的景観となっていく過程を整理した上で、近年再び宋皇臺への関心が高まっている状況を報告し、最後に香港文化と「文化中國」(文化的中国)意識について論じた。

蔡孟哲氏(高雄師範大学)は「台北信義「大縱酒」與東京新宿二丁目:東亞都市文化的關係性實踐與全球資本主義的文化再生產」(台北信義「大縱酒」と東京新宿二丁目:東アジア都市文化における関係性の実践とグローバル資本主義の文化再生産)と題して、発表を行った。「大縱酒」とは、コロナ期間に始まった、台北市信義地区で月に一度開催される、ゲイの若者らによる立飲みイベントである。蔡氏は、「大縱酒」と新宿二丁目のゲイバーを比較し、その消費文化の違いを論じた。

白池雲氏(ソウル大学)による報告「Young Femi, 二代男,還有我麼將再次相遇的民主」(Young Femi、二代男、そしてまた巡り逢えた民主)は、2016年から2017年にかけて起こった朴槿恵大統領弾劾デモと、2024年の尹錫悦大統領弾劾デモにおける若者の行動の変化を考察したものである。「Young Femi」とは若いフェミニスト(主に女性)を、「二代男」はアンチフェミニズム的な若い男性を指す表現である。白氏はまず、2016年とは異なり、2024年の抗議デモでは、20代から30代の若い女性を中心となっていること、一方で若い男性には保守化の傾向が見られることを報告し、その背景にあると考えられるK-POPの「オタク」活動とフェミニズム運動の関係や、若い男性に広がるアンチフェミニズム傾向について論じた。

張政遠氏(東京大学)は、「大震災與仙台」(報告者訳:大震災と仙台)というテーマで、和辻哲郎の「風土論」を切り口に、東日本大震災と仙台の風土変化の関係を論じた。張氏は、仙台市荒浜のように、震災後「災害危険地域」に指定され、建物の再建が禁止された場所や、寺院が別の場所に移転して再建された事例を取り上げ、復興における風土の変化、風土の喪失について考察した。

最後に、鈴木将久氏(東京大学)から、全体総括があり、本会は閉幕した。

 

報告:新本果(EAAリサーチ・アシスタント)
写真:席子涵(EAAリサーチ・アシスタント)