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2021.04.15

ケンブリッジからの報告

2019年3月末に特任助教を退職し、EAAフェローになった八幡です。2020年度からは東洋大学国際哲学研究センターの客員研究員となり、2021年1月からケンブリッジ大学の哲学部に訪問研究員として在籍しています。日本では新学期が始まりましたが、昨年からのコロナウィルス問題で大学の様子もずいぶん変わったのではないかと思います。現在イギリスに研究滞在中の身として、こちらの様子を皆さんにお知らせしたいと思います。

イギリスでは三度にわたるロックダウンが行われ、現在もその最中です。Stay Homeが基本とされ、自宅での仕事が推奨され、健康のための運動として戸外に出ることが許可されています。ロックダウン中は生活必需品を扱う店スーパーや食材店、薬局など)以外は閉店し、レストランもテイクアウトかデリバリーのみで営業を続けています。その他の物品についてはオンラインショップで買うという生活です。ケンブリッジでも街中の多くの店が閉店しているため、学生や観光客、買い物客でにぎわう通常の状況からは想像できないような人の少なさです。街はがらんとした静けさに包まれています(写真キャプション:中心地のKing’s Paradeとマーケット)。

 

 

イギリスの多くの大学と同様に、ケンブリッジ大学もオンラインで授業を行っており、2021/22年もオンライン授業が継続される予定です。約1年にわたるオンライン授業の経験によって、教員も学生もともにオンラインでの授業形式に慣れてきた雰囲気が感じられます。こちらでのオンライン授業は基本的にはビデオをオンにして行われるので、教員と学生が顔を見ながら授業を行っています。何度も顔を合わせるうちに、お互い知り合いになり、「元気?最近どう?」と声を掛け合うような関係になっています。

大学内での実験や資料の関係で来校しなければならない学生や職員以外は、書籍などを借りるとき以外来校しないので、大学キャンパス内も人がほとんどいません(写真キャプション:哲学部があるRaised Faculty Building)。図書館の利用に関しては、書籍をオンライン検索して貸出予約し、受取に行く時間を選んで取りに行くというスタイルです(写真:信号機で入館制限する中央図書館)。大学図書館のサイトからオンラインで見ることが可能な資料もありますし、それ以外にはコピーやスキャンを注文するという形で資料を入手できます。

 

 

イギリスでは2020年12月からワクチンの接種が始まり、4月7日現在3180万を越える人が1回目の接種を終え、609万を超える人が2回目の接種を終えています。感染者数の減少とワクチン接種状況を鑑みて、政府は3月末から徐々にロックダウンの緩和を進めています。すでに学校は低学年から順番に対面での授業が再開されました。春が近づくにつれ、公園や街を散歩する人やピクニックをする人も増えてきました。ロックダウン中は別の家族同士が会うことも規制されていましたが、屋外での2世帯まであるいは6人までの集会が可能になります。また4月半ばには生活必需品以外の店も規制(手指消毒、マスク、人数制限)に従って再開されます。夏以降にはかなり状況が改善することが期待されていますが、まだ予断を許さない状況で、今後の変異種やワクチンの副作用の問題などで改善する時期は遅れる可能性もあります。

こちらで知り合ったイギリス人は、私が日本人だと知ると、「日本におけるワクチン接種が遅れているのはなぜか?」「なぜ日本はこの夏にオリンピックを開催するのか?」といった質問を投げかけてくることが多々あります。(個人的な話ですが、私は東日本大震災の後、ドイツのハンブルクに留学しました。その際には、ドイツ人から「なぜ日本は原発を止めないのか?」という質問を度々受けました。) そういう時、自分の知識と言語能力を総動員して説明を試みますが、色々話し合った後で、もっとうまく説明できなかったものかと反省したりもします。イギリスのことも知らなければならないが、自分の国(日本)のことも知っていなければならない。これは海外滞在を経験した人に共通する実感ではないでしょうか。コロナ禍のような危機的状況において、伝えなければならない情報はより深刻なものが多くなります。何かを正確に知り、その情報を自分の言葉で伝えられるようになること、そして、自分の意見を明確化することが重要だと、当たり前のことながら改めて感じさせられます。

自分の言葉を見つめることは、自分の思考を反省することでもあります。いま私たちが誰に何をどうやって伝えられるのかを問う、コロナ禍2年目の春です。(写真キャプション:Parker’s Piece公園に咲く水仙)。

 

 

報告・写真撮影:八幡さくら(EAAフェロー)