3月20日(土)日本時間 16 時より、第5回日中韓オンライン朱子学読書会が開催された。これまで同様、EAA のほか、清華大学哲学系、北京大学礼学研究中心、科研費基盤研究(B)「グローバル化する中国の現代思想と伝統に関する研究」との共催である。
今回は廖娟氏(南開大学)が「曹元弼の易学伝承と思想辨正」というタイトルで報告を行った。司会は、清代易学・経学に造詣が深い谷継明氏(同済大学)である。
曹元弼(1867-1953)は呉の人、字は谷孫、『易』『礼』『尚書』『孝経』などの学をおさめた。近代中国における経学は、負の側面ばかり強調されてきたが、近年では優れた研究も増えてきた。曹元弼の幅広い経学を研究することで、近代経学の枠組みを立て直すことができ、また近代思想を多面的に捉えることもできる。曹元弼に教えを受け、現在、大学で教鞭をとる研究者も複数おり、経学の伝統がどのように現代へと繋がっているのかを考察する契機にもなる。
報告ではまず曹元弼の学脈について検討した。曹元弼が師事したとされる人物のうち、とりわけ黄以周は、これまで多くの研究で学術上の関連の強さが指摘されてきた。しかし、師事した時間が短く、書簡の往来などが少ないこと、また、学術の内在的な風格が異なっていることなどから、黄以周との間に学術的関連を強く主張することはできない。曹元弼の学問の源流を考えるにあたり、重要なのは彼の一族が尊んだ学問と、彼自身の学びの経歴である。曹氏一族は清初に呉に移り、元弼は幼い頃から易を学んだ。彼自身が述べるように、彼の学問は恵棟と江永、すなわち乾嘉学派にその源流がある。
報告では続いて、曹元弼の易学が、恵棟・張恵言・姚配中の易学の伝統を受けていることを指摘した。訓詁によって経義を求めること、漢儒の旧説を集めてそれらの意味を疎通させようとすること、三者の釈易の方法に敬意を示していること、張恵言に依拠し「礼」で「易」を解釈したことなどが、その理由として挙げられる。
最後に曹元弼の易学研究の欠点について指摘した。彼の学術は「博聞を好む」ために、瑣末なところまで追求をやめず、学ぶ者を混乱させてしまう側面がある。また様々な説を取り入れようとしてどんどん複雑になり、自らの立場をはっきりさせず、断言しない点である。
その後、司会の谷継明氏よりコメントと質問がなされた。谷氏はまず近年、曹元弼研究が盛んになった背景と現状について論じた。曹元弼研究は民国期の経学研究が復興したことの一つの縮図であると同時に、現代中国社会が礼教システムを顧みようとする背景のもと、礼学や易学など経学を熟知する曹元弼が、研究者の関心を集めるのは自然な現象であると述べた。曹元弼の易学は発掘する価値があるものがまだある。たとえば彼の釈易体例や、清末の文化変動期においても継続した経学研究の意義、さらに「礼」で「易」を解釈する学風と、彼の政治傾向がいかなる関係にあるのかなどである。
これに対し廖氏は、曹元弼は、六経を貫通させ、経学を研究することが「人心之所同然」であり、これこそが経学の復興に期待することだと述べた。しかし、曹元弼の学問には長所もあれば短所もあり、たとえば、彼の釈易体例はやはり完全とはいえないという。
このほか日韓の近代経学研究の状況、さらなる交流が望まれることなどが議論された。曹元弼研究に従事する若手研究者も複数参加し、有益な説明と補足を行った。今後ますます曹元弼研究の新しい局面が開かれていくことが期待される。
報告者:田中有紀(東洋文化研究所准教授)