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2024.02.28

【報告】EAAワークショップ「現代日本政治における議員連盟の考察」

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2024年214日(水)にEAAワークショップ「現代日本政治における議員連盟の考察」が開催された。今回のワークショップは科学研究費(基盤研究C)「現代日本政治における議員連盟の研究」と共催で、任意団体でありながら政治・政策過程に影響を及ぼす議員連盟をどのように捉えればよいのか、その研究方法を考察する会として企画・開催された。30年後の世界を想像し、新しい学問の創設を目指すEAAは、いまだ本格的な研究が行われていない議員連盟を取り上げ、日本政治やその研究方法、日本の民主主義などを忌憚なく議論する最適な場を提供してくれた。

日本の議員連盟(議連)とは、政党や派閥、委員会とは別の枠組みで政策課題の実現や趣味の交流、産業団体との連携など様々な目的をもって国会議員がつくる親睦組織・任意団体と定義される。こうした議連をどのように観察や分析をすればよいのか。これらの作業は日本政治や民主主義の機能にどのような意味をもつのか。こうした問いに焦点を当て、三つの報告が行われた。

まず、具裕珍氏(EAA)は「議員連盟の研究とその方法について―データ収集とその限界」を題目に発表した。具氏は、学校のサークル的な位置付けで結成・活動されるとの議連だが、その運営のために議員の歳費から会費を徴収することと、それにもかかわらず議連に関する情報公開があまり行われていないことを指摘した。データ収集の困難さが研究の必要性を妨げてきたともいえよう。そこで、まず、本研究では新聞記事を手がかりにして議連の様々な活動と側面―例えば、親睦から業界との連携、政策の推進(地域創生や観光客増加のための「ラーメン文化振興議員連盟」)、外交、政局(自民党総裁選を見据えて設立した「新たな資本主義を創る議員連盟」まで―を浮かび上がらせた。今後特に朝日新聞の記事から議員連盟を取り出して分析を進めるとともに、このようなデータ収集とその限界についても考察していく予定である。

次に、朴志善氏(岡山大学)による発表が行われた。「1990年代以降の議員連盟の活動―読売新聞の記事を手がかりとして」を題材に、朴氏は読売新聞に掲載された議員連盟に関する記事を分析した。具体的には、1990年から2012年までの4,055件の記事を議連の名称、党派、活動などで分類し、そのデータを元に、(1)記事件数には時系列に特別な傾向が見られないものの、時期によって特定の議連の記事が増加する傾向がみられること(例えば、1990年代には政治改革推進議連や日韓議連、2000年代には北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟など)と、(2)議連の設立目的や活動内容を軸に調査すると、主流派に反対する目的や外交関連の活動のための議連が目立つことを、朴氏は明らかにした。今後の課題としては、データの作成を完了し、読売新聞と朝日新聞のデータの照らし合わせが挙げられた。

最後に、田中雅子氏(流通経済大学)の「国会で議員連盟はどのように言及されてきたか?―国会会議録による分析―」を題とした発表が行われた。議員連盟そのものを対象とした網羅的研究が欠如している現状から、何らかの客観的方法で議連を計測し活動を把握する必要性を指摘したうえで、田中氏は国会会議録をもとに議員連盟と国会審議の関係を論じた。具体的には政党や会派が活動の基盤となる国会審議において、(1)議連はどのような位置付けとなるのか、特に内閣提出法案が主流であるなか、議連はどのように政策形成をめざすのか(議員立法)、(2)議連の政策形成活動に対して行政府はどのような態度を取るのか(対立か協調か無視か)、(3)なかでも「議員外交」をめぐり、議連と行政府はどのような関係を持つのか、を田中氏は問いかけた。

1990年から2023年までの国会会議録に言及された議連と関わる1343件の発言を分析すると、(1)外交関連議連の言及回数は1990年代以来に減少しているものの、内政関連議連の言及回数は増加傾向がみられる。外交関連議連では日韓議連の言及が顕著であるが、内政関連議連は時期によって異なり、1990年代には「スポーツ議連」が、2000年代には「死刑廃止議連」が、2010年代には再び「スポーツ議連」が国会で最も言及されたことがわかった。また、(2)発言の内容を調査すると、日韓議連に対して行政府は別のチャンネルとしての役割を認め、支援を示しつつも、敏感な問題に対してはノーコメントの立場を貫くことがわかった。これとは対照的にスポーツ議連では、議連と行政府(文部科学省)が役割分担する形で議員立法により「スポーツ基本法」を成立(2011年)させており、行政府と議連との協調的関係が明らかになった。

予定された時間を超過し続けた議論では、議連の全体像の意味や、議員連盟のオリジン、その歴史性、社会集団との距離の近さ(例えば、公式的期間との協議の手前の意見交換の場としての機能)、多様な議連の事例研究の必要性が挙げられた。報告者も参加者も議連研究の必要性を共有し、今後の研究の進展が楽しみになる時間となった。今回のワークショップの内容を元に、EAAブックレットの作成も予定されているので、これを踏まえたさらなる研究が行われることを期待している。

 

報告者:具裕珍(EAA特任准教授)