2024年1月30日(火)にEAA2023年度第2回RA研究発表会が開催された。第1回に続き、RAの3名、ニコロヴァ・ヴィクトリヤ氏、銭俊華氏、横山雄大氏による研究発表が行われた。ニコロヴァ氏と横山氏は昨年度の研究会に続き、2回目の発表となった。
写真(ニコロヴァ氏、銭氏、横山氏)
最初の発表はニコロヴァ・ヴィクトリヤ氏(総合文化研究科地域文化研究専攻・EAAユース)による「電車のレールを走る翻訳―魚返善雄が追求したものについて」であった。日本における中国研究の「学知の群像」を探究するニコロヴァ氏の研究は、今回、より具体化した内容であった。その出発点として、魚返善雄の文体理論に焦点を当て、特に中国語の翻訳に関する言語論や認識論が取り上げられた。翻訳を「電車のレールを走る」ことに例えた魚返の議論を検討した上で、ニコロヴァ氏は日本における中国への認識の問題を考察した。
続いて、銭俊華氏(総合文化研究科地域文化研究専攻・EAAユース)による発表が行われた。銭氏は「戦争をめぐる日本像と地域のナショナル・アイデンティティ問題に関する研究:香港を事例に」を題として、香港でのナショナル・アイデンティティ形成の過程に抗日戦争がどのように記憶されているのかを考察した。時代によって香港でのナショナル・アイデンティティと抗日戦争の記憶がダイナミックな関係を持つことを明らかにした銭氏の研究は、単線的な関係に焦点を合わせてきた日本における香港研究に示唆を与えるものとなった。
最後に、横山雄大氏(総合文化研究科国際社会科学専攻・EAAユース)の発表が行われた。日中の外交史を専門とし、特に漁業協定の交渉を研究対象とている横山氏は現在投稿準備中の原稿「石油危機と中国」について発表を行った。1978年の第2次石油危機という海外発の経済的衝撃を受けて、中国の国内政治の経済政策と権力闘争・再編の過程を、横山氏は緻密に叙述した。1970年代に海外輸出の4分の1を占めた原油資源をめぐる中国国内の認識と政策過程の考察を通して、後の鄧小平の再執権と解放・改革政策の背景をより深く理解することができた。
コメンテーターを務めた石井剛氏(総合文化研究科・EAA院長)は、各々の発表に対して論文指導のように丁寧なコメントと激励を行った。ニコロヴァ氏の研究に関しては、中国語や中国語翻訳における魚返善雄研究の重要性を指摘し、それを中心とする学知の群像のマッピングに期待を寄せた。また、銭さんの研究発表を受けては、香港での「ナショナル・アイデンティティ」を議論する際に付随する歴史に点着する複雑さを丁寧に描く難しさを指摘した上で、銭さんの研究の意義を見出した。最後に、石井氏は、横山さんの研究に対して、中国が原油資源を政治的レバリジーとしてどのように用いられるか、それを通して現代中国の国内政治を検討することの意義を指摘した。
昨年度のRA研究発表会の時間配分の失敗を反省して、今年度は2回にわけての開催となったが、どちらの回も予定時間を大幅に超過し、結局3時間に及ぶ研究会となった。しかし、いずれの場でも、EAAのRAの一人一人の研究に十分な時間をかけて濃密に議論する場が提供する楽しさを体験できる充実した時間となったことは間違いない。これからの展開にも期待が高まるところである。
報告:具 裕珍(EAA特任准教授)