2023年2月21日午後、訳者と共に読む『中国における技術への問い』読書会の第5回が開かれた。今回は期末試験終了直後での開催となったためか、学部生の参加者がおらず、汪牧耘氏(EAA特任研究員)、伊勢康平氏、滕束君氏、および報告者のニコロヴァ・ヴィクトリヤ(ともにEAAリサーチ・アシスタント)の4名で行った。
今回は、第一部の後半に当たる11節~19節を扱った。この部分で主に焦点が当てられているのは、唐の時代から20世紀にいたる、中国の宇宙技芸としての「道」と「器」の関係性の変遷である。
ただホイの議論は、単にそれを歴史的にたどるだけではなく、むしろ序論で明言されたように「道器の関係そのものを再発明すること」に挑むものである。あるいは、もともと存在していた道器の統一が最終的に崩壊してしまう過程を描いているともいえる。そのなかでも、特に明の宋応星とその著作『天⼯開物』に対する再評価や、かなりの紙幅が割かれた牟宗三の思想分析などに新鮮さを覚える読者が少なくないだろう。
その一方で、限られたページ数で極めて長いスパンの歴史が扱われているため、著者の考察の一部が「概観」にとどまってしまう側面が確かにある。例えば、議論の軸とされている思想の流れを記述するのみでは不十分ではないか、他にも視野に入れるべき人物や出来事がたくさんあるのではないか、という疑問が浮かぶかもしれない。しかし裏返していえば、そうした問題は、この部分でなされている議論にどれほど大きな展開の余地があるのかを、つまりそこにある潜在力も明確にしている。じっさい、読書会の参加者の間では様々な思索が喚起され、個々の関心に沿った展開の可能性が語られた。
今回で、第一部を読み終わり、読書会として一つの節目を迎えた。次回からは、ようやく第二部に目を向けることになる。第一部には当初予想していた以上に時間をかけるかたちになったが、これまで重ねてきた議論を活かし、そして深めつつ、本格的に技術と近代性の問題を取り上げる第二部に突入したいところである。
報告者:ニコロヴァ・ヴィクトリヤ(EAAリサーチ・アシスタント)