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2022.11.14

【報告】「書院を考える」研究会第2回

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このタイトルの研究会は、EAAコミュニティ内部の勉強会として開催しています。EAAでは毎日のように研究教育の様々なプロジェクトがめまぐるしく動いていますが、ともすればそうした日々の活動が何を目指しているのかを見失いがちになりますので、時々立ち止まって原点を確認しなければなりません。2022年9月27日に行われた第1回では、発足の経緯と「三大ミッション」について話しました。このほど、11月8日に「EAAの現在地と展望」と題して第2回を開催しました。
EAAの三大ミッションとは、研究・教育・社会連携です。これはこのウェブサイトでも組織図に示しているとおりです。

EAAのように外部資金によって運営される研究プロジェクトは東大の中に数多くあります。そのなかで、これら三要素の合力によって組織自体を推進していく仕組みを持っているプロジェクトは決して多くはありません。文系分野においてはなおのこと珍しいだろうと思います。
まず、研究においては、徹底的な国際化を進めようとしています。もともと北京大学とのジョイントプログラムとして始まったとは言え、このパートナーシップは、それより前からあった国際コンソーシアム(ニューヨーク大学、オーストラリア国立大学、北京大学、そしてわたしたち)のICCT(International Center for Critical Theory)がベースとなったものであり、またUTCPで培われた哲学の国際的なネットワークがそのままEAAの国際交流にいかされています(したがってUTCPとEAAは兄弟関係にあります)。この国際的な研究ネットワークこそがEAAの基盤です。COVID-19危機によってこれが機能不全に陥ってしまったのはEAAにとっては大きな痛手となりました。人の国際移動がようやく緩和されるようになってきましたので、これからが勝負だと言えるでしょう。
EAAが北京大学との協力によって成立したことの直接の意義は、こうして培われた研究における信頼関係が、具体的な教育の現場に応用され、花開いたことです。研究交流においては大学院生の参加が可能ですが、学部レベルでの交流は研究には直接結びつきにくいので、実のある交流プログラムを組み上げることは容易ではありません。EAAはしかし、ICCTの枠組みに加えて、教養学部が推進してきたキャンパス・アジアの取り組みを基礎としたことで稀有な実現例となりました。すでに北京大学との間では学部生の交換がソウル国立大学をも巻き込みながら深く強いレベルで行われており、経験と信頼が蓄積されていたのです。さらにここには教養学部の特色ある言語教育プログラムとして名高いトライリンガル・プログラム(TLP)が合流します。こうしてできあがったEAAの学部生教育プログラム「東アジア教養学」は、ICCTやUTCPで培った枠組みに、北京大学、東京大学双方のアカデミック・スタッフを加えた最先端研究とリベラルアーツ中心の学部教育との相互連関システムであり、学生はその中で英語、中国語、日本語の3言語を駆使しながら学ぶという、実に高度な教育実践なのです。このプログラムでは、両大学の学生たちが、双方の教員のもとで古典講読を中心とする「東アジアからのリベラルアーツ」を学びます。
さらに、EAAは寄附金によって支えられており、その存在自身がひとつの社会連携プロジェクトになっています。象牙の塔として孤高の地位を保つだけではもはや大学はその社会的責任を真に担うことはできません。産業との協創、社会全体との連携があってこそ初めて、大学は巨大な人類的課題に対して責任ある知を生産していくことができると言うべきです。したがって、EAAは高い志を持った企業や個人からの貴重なご寄付を頂戴することで満足することなく、そのような団体や個人と共に人類社会のために本当に必要とされる智慧を育む組織たろうとしています。共に智慧を育むというのは、研究者、学生、社会人を問わず、EAAに関わる団体や個人のすべてが、共に学び合いながら相互に変容していくことを指しています。その変容の先には、人類の暮らす世界そのもののよりよい変容が待っているはずです。昨今、リカレント教育の必要性が叫ばれていますが、それが必要なのは、社会と世界をよりよい方向に変革していくための柔らかい頭脳と豊かな想像力が今こそ求められているからにほかなりません。これをリベラルアーツとしてのリカレント教育と言ってもかまいません。学術フロンティア講義をダイキン工業の社員の皆さまにも受講していただいているのは、まさに、「30年後の世界」を見据えたリベラルアーツ・マインドを、学生といっしょになって養っていただくためです。EAAが提供する社会連携教育は、リベラルアーツを通じて文字通り新しい学問のフロンティアを切り拓くことに他なりません。
総じて、EAAは取り組みとしてはきわめて小さいものに過ぎませんが、大学のあり方をこれまでとは大きく変えるための激しい試みです。COVID-19危機に陥ってもう3年近くになろうとしています。しかし、ようやく世界の人々も移動を再開し始めました。EAAも社会の負託に応えながら、いっそうこの三大ミッションを強く進めていかねばなりません。その先にこそ、リベラルアーツを核とする大学の社会的価値が具体的に顕現することでしょう。そこに向かって邁進したいと思います。

 

報告者:石井 剛(総合文化研究科)