2022年9月17日(土)日本時間14時より、第14回東アジア仏典講読会を開催した。今回は土屋太祐氏(新潟大学准教授)と張超氏(PSL研究大学フランス高等研究実習院常任副研究員)により、それぞれ『宗門十規論』と『勅修百丈清規』「月分須知」の講読がなされた。なお張氏の講読は中国語でなされ、余新生氏(東京大学特任研究員)と柳幹康が通訳に当たった。
『宗門十規論』は唐末五代の禅僧法眼文益(885-958)の著作とされるが、同時代の文献に言及が見えず、その出版も元代に下る。そのため真撰か否か疑念が残るが、偽撰と確定できる根拠もないため、ひとまず法眼の作品と見られている。土屋氏はこのような状況、および刊本の系統について紹介したうえで、その序と目録を講読してくださった。その内容は、一見盛んながらも教論に基づかない当時の禅宗を問題視し、その弊害を解決するために本文で十章を設け論じるものとなっている。しかしながら難解な言い回しも多く、本文と対照して見なければ解読しがたい所も少なくないため、次回以降本文の会読を行なうこととなった。
張氏による『勅修百丈清規』「月分須知」の講読は今回で三回目となる。今回は五月の条をご解説いただいた。五月は端午の節句に菖蒲茶を飲み、その後に苗の成熟を祈る法会を行なう。また建物の整備のほか、役僧(事務を担当する僧)に対する住持の慰労がなされ、僧堂(修行の場)に蚊帳が掛けられた。その詳細について解説いただいた後、参加者により中日の禅寺の相違、とくにその顕著な例とされる塔頭(高僧の墓塔から発展した独立寺院)について議論が為された。
問題となる箇所が多く今回の講読はあまり進まなかったが、その分議論が深まり、それぞれ得る所があったものと思う。成果や効率のことを考えず、時間をかけ皆で一字一句を吟味することにこそ、読書会の醍醐味があることを改めて感じた。
報告者:柳 幹康(東洋文化研究所)