2022年6月18日(土)日本時間14時より、第12回東アジア仏典講読会を開催した。今回は張超氏(PSL研究大学フランス高等研究実習院常任副研究員)より「月分須知」の講読がなされた。なお講読は中国語でなされ、余新生と柳幹康が通訳に当たった。
「月分須知」は禅宗寺院の年中行事を月ごとにまとめたものである。そこには毎月の各種行事運営の概要が示されており、いかなる役職にある禅僧がどのような役割を担うのか、およびそれぞれの協力関係などが記されている。また行事のなかには仏教特有のもののみならず、世間一般の風習を承けたものも多い。それを見ることで当時の禅林の具体的な様子が見えてくる。張氏はもと禅林筆記(禅僧の随筆)を研究していたが、そこに禅僧の様々な役職や職分などが見えることから、禅林の生活を把握するために「月分須知」の研究に着手したのだという。
禅宗寺院の年中行事は、「清規」と称される禅林の規則をまとめた一群の文献に収められている。「月分須知」を収める最古の清規は、南宋末の『叢林校定清規総要』(1274年)であり、後の元代に編まれた三種の清規、すなわち『叢林備用清規』(1311年)、『幻住庵清規』(1317年)、『勅修百丈清規』(1336-1343年)にもそれぞれ、「月分標題」「月進」「月分須知」の名称で年中行事が記されている。また元代の禅宗以外の文献、すなわち律宗の『律苑事規』(1325年)と教宗の『増修教苑清規』(1347年)にも同様に「月分須知」が収められている。これらの文献からは、宋代から元代にかけて禅寺の生活が次第に規範化されていった様子を読み取ることができる。うち今回講読したのは、最も整備された禅林の清規である『勅修百丈清規』所収のものである。
張氏は禅僧の役職とその職務を簡単に紹介した後に、関連の記述や図像を豊富に引きながら、『勅修百丈清規』の「月分須知」の正月から三月までの内容を講読してくださった。正月には一般の社会同様、正月の挨拶がなされるほか、禅林の規則を定めたとされる百丈懐海を記念する百丈忌が為される。二月には冬期に暖を取っていた炉が閉じられ、仏の入滅に因む仏涅槃の法要が行なわれる。三月には僧侶の名簿の確認が行なわれるほか、墳墓の掃除を行なう世間の清明節にあわせて禅寺でも祖堂や祖塔、信徒の位牌を納める堂を掃除し、所有する山林の茶笋を保護するため立ち入りを禁止する札をかけるという。また禅林における茶の用い方についても合わせてご紹介くださった。
講読の後、日本・中国の禅林における現在の実践形態も踏まえつつ、活発な質疑応答と意見交換が為された。なお今月講読したのは全12ヶ月分のうち前半の3ヶ月分であり、残り9ヶ月分は今後の講読会で引き続きご紹介いただく予定である。これにより当時の禅僧たちが共有していた生活様式——禅寺という空間において、各役職につく多くの禅僧の分業・協力により如何なる共同生活が運営されていたのか——その様子が明らかになっていくことだろう。
報告者:柳幹康(東洋文化研究所)