2022年5月28日(土)日本時間14時より、第11回東アジア仏典講読会を開催した。今回は余新星氏(東京大学 特任研究員)より「伝夢窓疎石撰『二十三問答』について」と題する研究報告がなされた。
夢窓疎石(1275-1351)は室町期の禅宗隆盛の礎を築いた禅僧であり、『二十三問答』はその作とされる和文の法語である。余氏はこの法語が果たして夢窓の真作であるか否かという問題について、その各種版本の状況、および夢窓の他の著作との比較から検討を加えた。
『二十三問答』は江戸時代の写本・木版本が複数現存しており、その変遷は以下の三段階に分けられるという。当初は(1)23則の問答のみであったのが、後に(2)4則の法語が付加され、さらに(3)50首の沢庵和歌が追加された。また、(1)の段階では外題(表紙に記される題目)が無かったのに対し、(2)の段階で『二十三問答』と記され、(3)の段階になるとそれが夢窓のものだと明記するものが現われた。つまり本書が夢窓の作と銘打たれたのは、時代がかなり降ってからのことであった。
また、『二十三問答』を夢窓の他の著作と比べると、その用語も思想内容も異なっているという。夢窓の真撰である和文の法語に『夢中問答集』と『谷響集』の二種があり、両書は「禅」「本分」「本分の田地」などの語句が共通して多く用いられている。それに対し『二十三問答』にはそれらの語は見えず、かつ両書であまり用いられない語が頻出している。また『二十三問答』では「妄念が生じないことを成仏の要」とし、妄念を「打ち払う」よう勧めるのに対し、『夢中問答集』では「凡・聖の分け隔てがない状態を本分(本来の仏の状態)」とし、妄念を「打ち払う」ことを余計な作為として斥けるなど、思想的な相違も認められるという。
これらのことから余氏は、『二十三問答』が夢窓の真撰とは認めがたいと結論づけたうえで、その写本・版本が複数現存しているように本書が当時広く受容されたこと、および本書を含む名僧に仮託した作品が江戸期に複数登場しており、それらが仏教思想史上に占める意義について更に検討する必要があることに言及した。
以上の発表について、『二十三問答』は誰が如何なる意図のもの編纂した書物なのか、これまでの夢窓の思想研究における『二十三問答』の使用状況、夢窓の思想をどう理解するべきなのかなど各種の質問が寄せられ、活発な議論が行なわれた。
なお本講読会はこれまでオンラインで実施してきたが、ワクチンの接種状況や感染者数の推移に鑑みて、今回は対面参加者の人数を制限したうえでのハイブリッド形式で開催した。海外からの参加者もいるためZoomも今後併用していく予定だが、今後対面での交流の機会も広げていきたい。
報告者:柳幹康(東洋文化研究所)