2022年3月29日、 廖欽彬ほか編『東アジアにおける哲学の生成と発展 間文化の視点から』(法政大学出版局, 2022年)のEAA主催による書評会がZoom上で開催された
本書のまえがきでは、「近代東アジア哲学史の構築」という課題が掲げられている。では、単に各国の哲学史を並べるのでもなく、それ自体複雑な政治的・歴史的経緯を持つ「東アジア」を過度に実体化するのでもない仕方で、近代東アジア哲学史を語るにはどうすれば良いか。そこでは哲学、歴史、地理の間にいかなる関係をつけることが必要だろうか。
以上の方法論的観点から、本発表では本書が収録論考を通史的に整理するのではなく、「日本と西洋」「中国・台湾と西洋」「中国と日本」といったいくつかの地理的な組み合わせに基づいた章立てを行っている点に注目した。もちろんここに、結局は各国哲学の寄せ集めに陥っていないかと批判を向けることもできる。しかしまたここから、「可変的な配置と組み合わせの空間から出発することで、いかなる歴史叙述が可能になるか」という問いを立てることもできるのではないか。
たとえば地理情報システム(GIS)は、様々な観点から作成された地図をレイヤー状に重ねることで構築される。また羽田正氏は「新しい世界史」について、主題に応じた時代ごとの世界の見取り図を作り、「コンピューターグラフィックスのレイヤーのように」重ねるというメタファーを用いている(羽田正「新しい世界史と地域史」(2016年))。形而上学、歴史哲学・時間論、政治哲学など様々な主題が問われる近代東アジアの哲学史も、たとえば地域別ではなく主題別の章立てのもと、それぞれの主題に即して東アジアや西洋の諸地域の配置・関係を考察し、レイヤーのように重ねることから考えられないだろうか。哲学の歴史叙述は同時に、哲学の地図制作でもあるはずである。
発表では最後に、本書所収の論考(佐藤麻貴「音をめぐる、めぐる音」、張政遠「御進講と日本哲学」)からこうした考え方を深める上での示唆を受け取りつつ、締めくくりとした。
報告者:上田 有輝 (EAAリサーチ・アシスタント)