2021年12月10日、第6回EAA沖縄研究会が開催された。前回の第5回、今回の第6回、次回の第7回は2月開催のシンポジウム「『琉球』再考」に向けて登壇者が順繰りに発表する構成準備回である。前回の報告では、崎濱紗奈氏(EAA特任研究員)から、伊波普猷の古琉球論を手がかりに琉球的なるものの表象についての問題提起が行われた。今回は報告者(前野)が台湾のフィールドにて収集した各種の事例を交えながら、現代社会の古代的なるものをめぐった力学について初歩的な考察を試みた。
「樹木信仰と伝統観察者―無文字伝統のテクスト化」と題した報告では、現代台湾においてなおしばしば確認できる樹木、とりわけ巨樹あるいは老樹に対する「信仰」を取り上げた。「信仰」と括弧をつけるのは、それがひとえに「宗教」未満の、体系化され位置づけられてはいない実践だからである。文字的な起源の曖昧な実践として行われてきた樹木「信仰」は、時として実践者自身の手によって経典テクストの「宗教」世界に結び付けられ、時として外部の「伝統観察者」たちによって特定の意味を与えられる。あるいは実践者自身による、経典テクストならびに多様な現代的テキストリソースへの意味の結びつけを、必ずしも伝統の不純化とみるべきではないのかもしれない。実践者自身が各種のデジタルメディアを通じて記録・表現・発信を行うことが可能になった現在において、表象をめぐる力学は変化を遂げつつあり、その力学の中での「伝統観察者」の立場も変容を迫られている。ディスカッションでは意味記号としての漢字と音声の問題について、いくつか議論が交わされた。「仏教民俗学者」五来重を生んだ柳田國男の「ホトケ」と「ホカイ(行器)」をめぐる議論にみられるような、音声探究のスピリットを中華世界において展開することもまた可能かもしれない。
次回の沖縄研究会は、髙山花子氏(EAA特任助教)にアイヌ学者・知里真志保と「うた」をテーマにお話しいただく予定である。3回の一見不連続なテーマの報告を通して、改めて、現代社会の古代的なるもの、について考察を深められればと思う。
報告者:前野清太朗(EAA特任助教)