2021年12月4日(土)の13:30-16:00にかけて、「近世ヨーロッパの文化と東アジア研究会」の一環として、第2回「東アジアへの西欧の知の伝播の研究会」が開催された。
小島浩之氏(東京大学・講師)の司会のもと、まず野原慎司氏(東京大学・准教授)より開催趣旨の説明が行われた。
第一報告の高哲男氏(九州大学・名誉教授)による「アダム・スミスの音楽論――『道徳感情論』と「模倣芸術論」を中心に」は、従来の伝記的研究では触れられてこなかった、アダム・スミスの音楽への関心について焦点をあてた内容であった。報告では、『道徳感情論』に見られる音楽用語を用いた主張の展開、『国富論』における音楽の社会的役割等に関する言及、論文「模倣芸術論」で論じられる詳細な音楽論について具体的な紹介を交えて、音楽に関心をもつスミスの一面を明らかにしている。また高氏は、「模倣芸術論」の持つ意義については、スコットランド啓蒙研究との関連で今後深めていく必要があると指摘している。
第二報告の野原慎司氏による「ホゥガース風刺画から見るアダム・スミスの時代」は、ホゥガースの諷刺画からアダム・スミスが捉えようとした社会というものを考察する内容であった。ウィリアム・ホゥガースはイギリス18世紀を代表する画家・版画家であり、本学元総長・大河内一男の収蔵品が経済学部に寄贈されている。スミスとホゥガースが生きた時代は、民衆の意見が政治・社会を動かした「世論」の時代で、その時代を生きたホゥガースの風刺画は、誇張やあざけりを伴いつつも社会を動かす民衆を描いたものであった。その上で、ホゥガースの連作版画「選挙」に着目してみると、都市化した社会の中では腐敗が生じるなど、すなわち当時の政治・社会の「影」の部分が見えてくる。そして、スミスの著作や思想に照らし合わせてみると、こうした「影」の部分もスミスが捉えようとした時代・社会であったことが見えてくると本報告では論じられている。
最後に、石原俊時氏(東京大学・教授)より閉会の挨拶があった。
申込登録者は80名を超え、当日は常時50名程度が参加し、、活発な質疑応答がなされた。
報告者:森脇優紀(経済学部資料室)