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2024.03.25

鵬程万里:RA任期を終えて 12 李佳さん

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別れは、過ぎ去る時の早さを気づかせる。

 2023年の初冬、あるイベントに参加したのがきっかけで、私は初めてEAAを訪ねた。101号館の廊下の奥にあるセミナー室には、暖かい笑顔、思索を誘う知見と鋭いコメントが満ちていた。その光景は今でもよく心に浮かぶ。イベントの数日後、EAAのホームページでRAの応募情報を見つけ、迷わず応募した。

 私は2019年から、現地調査(フィールドワーク)という人類学の研究手法を用いて、中国都市部の芸術実践について調査を行なってきた。同じく芸術を対象とする美術史、美学や哲学と比べると、私の研究はどこに位置づければよいかという「研究者のアイデンティティ探し」でずっと苦悩していたこの1年間、EAAのおかげで、哲学、歴史学、文学や政治学など、様々な分野で活躍する研究者たちのお話を聴く機会に恵まれた。異なる分野の研究に触れたことで、人類学の特性と限界は何だろうか、そして、膨大な中国研究において、人類学の射程はどこまで含むことができるかなど、色々考え始めた。迷い悩むうち、私は人類学の原点に戻ってみた。そして、日常経験に根ざした人類学の研究は、「芸術」に対する理解を人々による「生の表現」へと拡張できるのではないかと思うようになった要するに、現地調査で私の目に映ったのは、単なる作品ではなく、むしろ、人々が芸術を通して表現した「生の感覚経験」であった。私が出会った一人ひとりの経験と語ってくれた言葉の中にこそ、現代中国で「芸術」と共に生きることの意味は潜んでいるのではないか。この気づきは、私に大きな力と信念を与えてくれ、それにつれ心がだんだん落ち着くようになり、フィールドノートと向かう日々を続けることが可能になった。

 RAの一つの業務内容は、先生たちの講義の内容に基づいて、学部後期課程生向けのチュートリアルを開催することである。一人ひとりの関心に合わせ、レクチャーの内容をどうまとめたら興味を誘う議論を提起できるか、大変悩んだ時もあった。RAの仲間たちと相談しながら、色々なやり方を試行錯誤してきた。そして、多様な背景を持つ学部生の皆さんが関心を持つ多様な視点を提供してくれたことで、議論を広げていくことができ、毎回のチュートリアルを一緒に「考える場」にしてくれた。そういう意味で、この1年間は、ユースの皆さんと一緒に思考することの楽しみを味わい、共に成長できた1年間でもあった。

私は、EAAのホームページに書かれたある言葉にずっと惹かれている。「東アジアにおける世界を問う新しいリベラル・アーツとしての学問」。この言葉を初めて目に映した時、頭の中に浮かんできたのは、新たな道を開拓する勇気とそこへ前進する姿勢である。RAとしてEAAで働いた1年間、その言葉が示す胆力を、私は確かに感じていた。振り返ってみれば、私が研究の道を歩む過程には、ずっと研究の虚無感に抵抗しようとする気持ちが伴っていた。矛盾したことだと思われるかもしれない。このような「矛盾」した気持ちを抱えた私は、IHSとEAAを自分の居場所と定め、先生方々の研究を通して、現実世界に向き合う学問はどのような学問になり得るかという問いについて多くの可能性を気づかせてもらった。この春、満期退学をもってEAAから離れるにあたり、ここで生まれた多くの出会い、そして、数えきれぬ感動、勇気と希望の瞬間を与えてくれた人々に、心より感謝を申し上げます。