2024年度EAAに新しく参加したRAたちを交えて、RAの研究を共有する「RA研究発表会」が2回にわたり開催される。2025年3月14日(金)にはその第一回目が開催された。
最初の発表は銭俊華氏によるもので、博士課程の修了を控え、博士論文とは異なる内容として「香港文学史論の展開」について発表した。 「香港文学」とは何か。人、対象、言語など、程度の差はあれ「香港的」な要素を持つものだ。しかしそれだけではない。香港文学は「地域文学」なのか。しかし他の地域には歴史があっても自らの地域文学を確立していない例がある。香港文学を「中国文学」の一部と単純に位置づけることもできない。そこで、香港文学に「特異性」があるとすれば何かという問いが生じる。発表の最後には、銭氏は香港文学を一種の「政治運動」として捉える視点を今後の研究関心として示した。質疑応答では、香港文学と広東語、Sinophone、華語文学、そして世界文学との関連性について質問があった。また、「香港文学」の本質論ではなく、より社会構築主義的な考え方の必要性も言及された。
2つ目の発表は林子微氏によるもので、博士論文の一部として「晋南朝における皇后廟の成立」というテーマで発表した。 晋南朝の特徴として皇后廟の存在に着目し、その背景を制度的変化から解明した。後漢以来の皇后と皇太后の関係とは異なり、晋南朝では皇后は絶対的な配食権を持ち、「皇后」の名号を有する者はすべて太廟で配食された。それにより、婚姻関係のみで定義される皇后と、皇位継承から切り離された制度化された体制が形成されたという。普段聞く機会のない内容で良い勉強となり、事実確認や研究の動機等についての質問も多く寄せられた。かつての王朝への想像力、その制度変化に潜む当時の政治的関心、そしてその変化がもたらす祖先祭祀の表象の変容を探る学術的意義と魅力をより明確に言語化することが期待される。
最後の発表は席子涵氏による「『シャム華僑』から『中国系タイ人』へ ースキナー『同化パラダイム』を問い直すー」であり、今後の博士課程の研究計画に当たるものであった。 20世紀前半から中国とシャムが近代国家へ移行する中で、タイの華人華僑の文化論的探究に比べて法的・制度的議論が不足しているという問題意識から、席氏の博士課程の研究は、多言語を駆使し、「中国への回帰」でも「同化パラダイム」や「二重アイデンティティ論」でもない、華人華僑史の再編とアイデンティティの変容を通史的に考察するものになるようである。質問としては、タイの華人華僑という枠組み内部の濃淡や系譜の違いが挙げられた。また、華人華僑研究が盛んに行われているマレーシアやシンガポールと比較した場合、タイが持つ特異性と示唆などについてもコメントがあった。
久しぶりの研究発表会への参加から多くの刺激をもらった。発表者三名はそれぞれ異なる研究段階で異なる対象を扱っているものの、研究を構成する上ではいくつかの共通点が見えてきた。この研究はどういう意義があるのか。何が興味深いのか。なぜ日本で行うのか。狭い領域を超えても意義を持ちうる研究を目指すものにとって、そうした質問に自分なりに応答しながら、悩み続けることが重要であろう。それを考え、さらに自らの関心を広げたり照準したりする場として、ぜひEAAを活用していただきたい。
二回目のRA研究発表会も期待したい。
報告・写真:汪牧耘(EAA特任助教)
