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2021.12.04

【報告】第5回EAA沖縄研究会

【報告】第5回EAA沖縄研究会

20211119日(金)、第5EAA沖縄研究会が開催された。今回からの3回(第5回〜第7回)は、25日(土)に開催予定のシンポジウムの準備会として、登壇予定者が発表を行う。シンポジウムは「『琉球』再考」と題し、「琉球の歴史・文化・宗教」をテーマとしながら、「琉球」という名のもと自明視されてきた表象を問い直すことを目的としている。今回は報告者(崎濱紗奈:EAA特任研究員)が「琉球/沖縄と宗教——伊波普猷『古琉球の政治』を出発点として」というタイトルのもと、伊波普猷における宗教論の概観を参加者とともに確認した。

1910年代後半から沖縄を襲った経済危機である「蘇轍地獄」が伊波普猷に思想的転回を促したことはよく知られている(例えば、鹿野政直『沖縄の淵——伊波普猷とその時代』を参照)。とりわけ著しい変化が見られるのは伊波の宗教観である。「蘇轍地獄」を挟んで、個人と国家を接続するメディアとしての宗教に期待をかけるという立場から、王権による租税徴収の正統性/正当性を担保する機能を果たしたとして、宗教の在り方を根本的かつ批判的に問い直すという姿勢へと変化した。『古琉球の政治』(1922)は、こうした転換の出発点とも言うべき著作である(【報告】伊波普猷「古琉球の政教一致を論じて経世家の宗教に対する態度に及ぶ」を読むを参照)。

その後の伊波の宗教研究は、『をなり神の島』(1936)、『日本文化の南漸』(1936)、そして『沖縄考』(1942)に結実する。琉球における王権の成立過程を明らかにし、「神」と王の関係を突き止め、さらには王権成立以前の「神」と共同体との関係性にまで迫ろうとする伊波の関心は、琉球/沖縄に留まるものではない。その射程範囲には、王権および国の成立、さらに踏み込んで言うならば、「政治」の発生という問題を問うところまで含まれている。こうした探究を深めるべく伊波が参照したのは、柳田國男や折口信夫、あるいはエミール・デュルケームやW.H.R.リヴァーズらによる民俗学・社会学・人類学的な知的営みであった。言語学を専門とする伊波が、これらの諸領域と自らの知を接続することによって開かれたのが、伊波の「おもろ」研究であったと言えよう。

ディスカッションでは、山にまつわる信仰や習俗との比較の可能性や、国家神道に対する伊波の批判的な立場といったテーマについて議論が交わされた。

次回は1210日(金)に開催予定である。前野清太朗氏(EAA特任助教)に、「樹木信仰と伝統観察者」というタイトルで発表頂く予定だ。台湾をフィールドとしてご研究を積み重ねてこられた前野氏の視点から、「琉球」を問い直す契機を獲得したい。

報告者:崎濱紗奈(EAA特任研究員)