2023年10月11日(水)15:00より、ハイブリッド形式(東洋文化研究所大会議室/Zoom)で、白永瑞氏(延世大学名誉教授)を講演者に迎えて「ʻ複合國家ʼ論の可能性——⺠主主義の危機と向き合う」が開かれた。金杭氏(延世大学教授/東京カレッジ招聘教授/EAA訪問フェロー)による司会進行のもとで、國分功一郎氏(東京大学)と崎濱紗奈氏(EAA特任助教)が討論者をつとめた。オンラインも含み、約40名の参加者を得た。
講演では、民主主義の意味を再考すべく、白氏が「核心現場」と呼ぶ朝鮮半島、台湾、沖縄に加えて中国大陸を具体例として参照しながら、「南北連合型」、「帝国型」、「内破型」という三つの類型に分け、「複合国家」概念の有効性と意義を提示した。特に、democracyの正確な訳語は「民治」だと指摘し、「民主」と「民治」の違いを強調した。各類型の複合国家は異なる歴史的脈絡を呈しているが、それらを互いに向き合わせることで、中島隆博氏(東京大学)が提唱するco-becoming(ともに生成変化する)という概念が示唆するように、主権の至高性ないし分割不可能性に挑戦しながら、同じ領域において複数の主権が重なり合う体制を「来るべき民主主義」として期待できる、と述べて白氏は講演を閉じた。
コメントでは、國分氏は、日本における分断のリアリティーについての自分自身の経験を踏まえて共感を述べたうえ、複合国家における正当性の根拠(憲法)はどうやってつくるのか、また、国家の主権とグローバル化する資本主義との関係について質問した。崎濱氏はご自身による沖縄研究の経験からコメントしたうえ、民主と民治を弁別する意図について質問した。参加者からは、複合国家の三つの類型の規模、及び三つの類型と日本との関係、市民運動との関係、複合国家における主権の主語など、大学院生からの発言も得られて、さまざまな視点から発展的な質問がなされた。
東アジアの諸地域を横断的に取り上げた刺激的な本講演は、日本の位置づけや、それ以外のアジアの地域(例えば東南アジア)への適用性など、参加者に数多くの示唆を与えたのだろう。また、昨今の不穏な国際情勢に鑑み、本講演会は、「民主」や「主権」についていま一度真剣に考える貴重な機会にもなったと思われる。
報告者:黄霄龍(EAA特任研究員)