2022年12月9日、第5回の「開発と文学」研究会は「『(再)開発文学』の感知の射程」というテーマで開催された。これまで、本研究会は近代以降の沖縄文学を中心に輪読してきた。それぞれの作品に散在している開発像を洗い出すこと自体は非常に興味深い作業であった一方、開発と文学を論じる際に方法論的な不安を感じることが少なくなかった。そこで本研究会が着目したのは、「(再)開発文学」という概念を打ち出しながら、中上健次の「路地」をひもといてきた渡邊英理氏の近著『中上健次論』(インスクリプト、2022年)である。
発表を担当した報告者(汪牧耘)は、自身の専門領域である開発学の角度から文学作品への問題関心を共有した。すなわち、レポート、論文や政策文章などといった何らかの権威・規範に縛られる文体ではなく、「文学だからこそ見える開発」とは何か、という問いである。こうした関心をもとに、報告者は本書の「開発」の射程に関する問題提起をした。開発の「負の側面」とそれに対する路地の抵抗の可視化という本書の取り組みは非常に重要である。一方、これらの「負の側面」は誰にとって不可視化されているものなのかという点は自明ではなかった。本書でも示されたように、国家・資本と社会を息苦しく思う人々との関係は必ずしも二項対立であるとは限らない。近代的な開発は、秩序・体系を強める領域であると同時に、夢・欲望・情動を喚起する領域でもある。だとすれば、開発の負の側面を際立たせるだけではなく、より豊かかつ新たな「開発」概念を提起し得る開発文学の可能性を探究することによって、複雑な現実に相対する読者の想像力を養うという方法もあるのではないか。
今後はさらなる議論が必要だ。なかでも、開発という視座を文学論に入れることは、果たしてどのような問題への応答にとって有効なのか、という問題である。文学は人間性の幅を探究する行為だとすれば、開発に関わる場面において観察されやすい人間性とは何かを考えなければならない。他にも、参加した丁乙氏(EAA特任研究員)・崎濱紗奈氏(EAA特任助教)・柳幹康氏(東洋文化研究所)からは、開発の現実/文学の現実の違い(表象の差異という問題)、開発に伴う福祉/犠牲の時間的不確実性、そして開発問題の外発性と内部化といった議題が挙げられた。引き続き、活発な議論の場を開発していきたい。
報告者:汪牧耘(EAA特任研究員)