終わらぬ新型コロナウイルスの感染、差し迫る環境問題、日々深刻になっていくウクライナの情勢…世界はいま複数の危機に直面している。私たちは行動や世界観の変化を迫られる時代の転換期に立たされている。ところで、現在の危機を生み出す構造は突如できあがったものではなく、少なくともその一部はかつての戦間期、すなわち第一次世界大戦終結から第二次世界大戦勃発までの時期においてすでに形成しており、しかも批判的に対象化されていた。そのため、今日を共に生きるには、戦間期に展開した諸思想に焦点をあて、その光と影を含め多様な視点から学際的に再考する営みが必要だろう。
そこで、郭馳洋氏(EAA特任研究員)と私が発起人となって「戦間期思想史を語る会」を企画した。この会の主な目的は、1910から1930年代の中国における思想・言論から出発しつつ、同時代(広く20世紀前半を指す)の東アジアないし世界の諸地域の思想を視野に入れることで、地域・ジャンルを横断する普遍的な問いを共有し、時代の危機を正面から考える手がかりを模索することである。まずは準備段階の活動として、中国以外の各地域を研究対象とする若手研究者に声を掛け、数回にわたって一人ずつ意向を伺いつつ、本企画の中身について話し合うことにする。
6月17日(金)15時に、ドイツ哲学を専門とする宮田晃碩氏(UTCP特任研究員)をEAA駒場オフィスに迎え、本企画の趣旨や活動の仕方について打ち合わせした。ハイデガー(ほかに和辻哲郎やハンナ・アーレント)を中心に研究を進めてきた宮田氏はハイデガー哲学の政治性、とりわけ言葉、民族、世人(das Man)の問題に触れつつ、本企画に関心を示してくれた。この会談を通して私たちはあらためて「大衆」、「言語」と「共同体」という三つのキーワードで戦間期の思想を問い直す可能性を確認した。また、同僚の髙山花子氏(EAA特任助教)とは当時の東アジア思想界で一世を風靡したベルクソン哲学への関心を共有することができた。今後はほかの若手研究者ともこのような会談を設けることで、「戦間期思想史を語る会」のプランを具体化していきたい。
報告:陳 希(EAA特任研究員)
郭馳洋(EAA特任研究員)