2022年3月4日(金)、EAA共催のもと、東京大学GSIキャラバン・プロジェクト「群島と太洋の思想史——太平洋のグローバル・ヒストリー」第9回研究会が開催された。馬路智仁氏(東京大学)を研究代表者とする本キャラバンでは、「太平洋」というイメージ/表象/意味体系がどのように構成されてきたのかという問いに対して、思想史という観点からアプローチすることを目的とし、過去10回研究会を重ねてきた。第11回となる今回は、Greg Fry氏(オーストラリア国立大学)をお迎えし、“Norms and Representations of Pacific/Oceanian Regionalism: Reading Greg Fry’s Framing the Islands (2019)”というタイトルで講演頂いた。
キャラバンメンバーの他に、第9回研究会で講演くださった小林ハッサル柔子氏(立命館大学/オーストラリア国立大学)、井上彰氏(東京大学)、そして乙部延剛氏(大阪大学)にもご参加頂いた。
講演では、Fry氏が著書Framing the Islands (ANU Press, 2019)を執筆するに至った問題意識や、「太平洋地域(Pacific Region)」という一つの地域概念が形成されてきた歴史的過程、及びその形成過程に関与した政治・経済・文化事象についてお話し頂いた。帝国主義時代、いわゆる西洋列強諸勢力によって見出され、組織されたこの地域は、第二次世界大戦後、脱植民地化の波の中で、この地域に住まう人々自身によって再定義されてきた(思想史という文脈においては、本研究会でも度々取り上げてきたフィジーの哲学者・文学者Epeli Hauʻofa(1939−2009)の業績が際立っている)。興味深いのは、こうした再定義の試みと、脱植民地化のプロセスの中で生じる国民国家の建設という営みが同時並行でなされてきたことである。一見相対するこの二つの試みが、必ずしも衝突するものとしてではなく、むしろ両立しうるものとして展開されてきたことが、現在の「太平洋(Pacific)」を形作る重要な要素となっている。
講演に続いて、ディスカッションの時間が設けられた。先述したようなテーマ(太平洋地域という一つの地域としての総合体と、その内部に位置する国民国家の主権との関係性)に関わる質問をはじめ、日本および東アジア地域と太平洋地域との関係性、あるいは「インド太平洋」「太平洋」概念の相違について等々、必ずしも専門を等しくしない参加者からの、バラエティに富んだ質問の数々に、Fry氏は丁寧に時間をかけて応答してくださった。
COVID-19が終息した暁には駒場にて再会することを互いに願って、会を終了した。
報告者:崎濱紗奈(EAA特任研究員)