2020年12月4日、第2回の101号館映像制作WSが開催された（第1回の報告はこちらを参照）。出席者は石井剛氏（EAA副院長）、アドバイザーとして折茂克哉氏（東京大学駒場博物館）及び星野太氏（早稲田大学）（当日は欠席だったが、総合文化研究科の田村隆氏もアドバイザーに名を連ねている）、映像制作のサポートとしてSETENV社の入江拓也氏、WSのコーディネーターとして髙山花子氏（EAA特任助教）、そして担当RAとして日隈脩一郎氏（東京大学大学院教育学研究科博士課程）、小手川将氏（東京大学大学院総合文化研究科博士課程）、報告者の高原智史（東京大学大学院総合文化研究科博士課程）であった。

　最初に自己紹介をした後、星野氏の提案で、WSと同じ時間帯にweb配信されていた、シンガポールのアーティスト、ホー・ツーニェンの「旅館アポリア」という作品に関する講演を視聴した。それは第二次大戦末期には、特攻隊の隊員が最後の宴会をしにくるという旅館を舞台にして、特攻隊そのものや京都学派を、イメージの連鎖によって結びつける展示であって、場の記憶を保存する試みとして参考になるだろうとされた。

Ho Tzu Nyen, Hotel Aporia (2019) Site specific installation at the Kiraku-Tei, Toyota City, Aichi Triennale (2019) 6 channel video projection, 24 channel sound, automated fans, lights , transducers and show control system Commissioned by the Aichi Triennale, courtesy of the artist and Edouard Malingue Gallery Photograph by Hiroshi Tanigawa

　次いで石井氏から、改めてEAAというプロジェクトの趣旨、101号館について、田村氏が主に進めている一高校長狩野亨吉（1865-1942）に関する調査や展示についても触れつつ、EAAの一高プロジェクトについて概要が話された。

　続けて、このコロナ禍でオンライン化が次々と進む中で、大学で学び、研究し、生活するということの空気感、手触り、におい、というようなものを大事にしたいとした。

　また、101号館が出来たのが1935年ということを考えると、すでに満州事変は起きており、戦争ということを意識する必要があるとした。そのことから目を背けず、乗り越えたうえで、学問を通じた友情、それを通じた平和への貢献がEAAとしての目標であるとした。

　続いて折茂氏が話し、アーカイヴィストの立場からすれば、いつだって記録は不十分だが、それでも、できる範囲で記録を残しておくのは大事とし、また、今回のプロジェクトはむしろ学術的に、ドキュメンタリーとしてではなく（それなら別に論文を書けばよい）、アーティスティックに作るべきだとした。2020年の東大生が、戦前の一高生の思いの丈を読んで、その思いの丈を映せばよいのではないか、とした。

　星野氏は、ここ20年で駒場から古い建物がどんどんなくなっていると言い、また自身が学生時代、旧物理倉庫という名前だけ残ってサークルの部室になっていたあたりにつき、今回、101号館エントランスの展示で戦前のキャンパス配置図で、物理学、化学、生物学、特別教室となっているのを見て、やはり当時は物理の教室がそこにあったのだという気付きを披露した。

　石井氏は、人文系の研究においては、みんなで一つのもの、作品をつくるということ自体が、新しい取り組みであるとした。

　日隈氏は、今ではコムシーが建っているところが、自身の入学時はまだ建設途中だったことに触れ、また、コロナ禍の現在、コミュニティを新たにつくることについて話した。

　小手川氏は、距離のあるものにどう接近することができるかについて考える必要があるとし、例えば101号館だけでも、世代によって関わり方が異なり、名称も異なることに触れた。

　そこで、田村氏がすでに示されていた1950年の101号館の写真について、書き込みから特設高等科の建物として、101号館が当時「特高館」と呼ばれていたことを石井氏が示した。

　このあたりで時間が尽き、次回WSへと話は移り、今度は折茂氏が、自身でよく案内をされているところの、キャンパスツアーを皆でしてみることが結着し、今回のWSは終了した。

1935年10月30日の第一高等学校特設高等科全景（東京大学総合研究博物館小石川分館所蔵）* 2021年1月12日に追加

特設高等科写真（田村隆氏提供）

報告：高原智史（EAAリサーチ・アシスタント）