2024年7月8日(月)、東京大学駒場キャンパスの東アジア藝文書院セミナー室にて、EAAラウンドテーブル「惑星的視座における中国学のこれから」が開催された。石井剛氏(EAA院長)がイントロダクションを行い、楊儒賓氏(国立清華大学)や、ヤナ・ロスカ氏(リュブリャナ大学)、魏月萍氏(スルタンイドリス教育大学)、橋本悟氏(ジョンズ・ホプキンス大学)、彭春凌氏(中国人民大学)、張政遠氏(東京大学)が登壇した。
冒頭では、石井氏より「惑星視座における中国学のイニシアティヴ――東アジア藝文書院の活動と今後の展望」と題したイントロダクションがなされた。東アジア藝文書院では、東アジアの伝統的な学問を西洋において発展してきたリベラルアーツと融合させ、新しいリベラルアーツを作り出すことを目指している。石井氏は、東アジアの視座から普遍性の再構築・「共生」という概念をめぐる異言語間の対話・空気の価値化という三つの視点をめぐってEAAの活動を紹介した。そして、前日(7月7日)に開催された中国社会文化学会2024年度大会のシンポジウム「惑星時代の中国学」で話題となっていた問題をまとめ、惑星的視座における「道統」や、台海両岸関係から見た複数の近代性、境界性の張力と潜在力などの話題を今日のディスカッションのヒントとして提示した。
石井剛氏
ディスカッションでは、ヤナ・ロスカ氏は惑星性(planetarity)がグローバリズムと混同されていることに注意を促したが、実はそれがグローバリズムに対する反省と批判であると指摘した。ヨーロッパ中心主義はなお批判の焦点とされてきたが、それには潜在的なパワーがあるにもかかわらず、現実世界の権力構造を示せていない。そのため、「共生」という問題を議論するには、世界的な力の不均衡について十分に批判すべきであると述べた。魏氏も、まず何が「共生」を妨げているのかを考えなければならないと述べ、例えば異なる民族が通婚/混血している場合、「共生」の問題は複雑な状況になると指摘した。
ヤナ・ロスカ氏
魏月萍氏
「複数の近代」について、橋本氏は、ノルム(norm /規範)とパラダイムを区別すべきであると指摘した。規範ではなく近代化のパラダイムをいくつか出したヨーロッパに対し、アメリカでは民主主義が支配的なイデオロギーの規範となっている。そして、中国の複数の近代性をめぐって、彭氏は、共産主義や社会主義は1911年に成立した中華民国にすでに内在しており、ともに中国の近代化の重要な産物であると述べた。それに対し、楊氏は、自由・民主主義・公民権などの観念は資本主義の専有物ではなく、普遍的であると指摘した。民主主義以外の規範、またはパラダイムが見つからないため、民主化の問題を回避することができないと述べた。
橋本悟氏
彭春凌氏
楊儒賓氏
張氏は『気候リヴァイアサン──惑星的主権の誕生』(堀之内出版、2024年)という本を批判しつつ、気候変動は人々にはっきりと実感されにくいと指摘し、地域レベルの風土変動に注目することを提言した。これについて、楊氏はハイデガーの天・地・神・人の理論によれば、主体性よりも深刻な行動力は大地、すなわち風土に関係していると指摘した。しかし、人々の行動にそれぞれの文化的根拠がある場合、共通の規範が問題になる。楊氏は『尚書』尭典という中国の「創世記」の叙述からその答えを探した。それによれば、地上の秩序は星空、つまり天上の秩序に則って形成されるという。それに対し橋本氏は、司馬遷も「天道是か非か」と言ったように、天道も問わなければならないと述べた。
張政遠氏
楊氏は、星空の視座で中国学を創立しなければならないと主張した。彭氏も、伝統的な学問としての「漢学」より、「中国学」の方が現在の中国研究にふさわしい概念であると主張した。それに対し、魏氏は、「漢学」という概念を見放せば、世界中の漢学研究とのつながりがなくなるのではないかという疑問を提起した。
質問応答では、人道支援や章太炎の進化論、惑星時代における中国学などについて、熱く議論が交わされた。
報告:林子微(EAAリサーチ・アシスタント)
写真:張子一(EAAリサーチ・アシスタント)