ご存じの通り、EAAは北京大学とのジョイントプログラムです。研究から学部教育に至る大学における学問活動のあらゆるステージで相互の協力を深めることが目指されていますが、とりわけ学部教育において、共通の理念に基づく教育プログラムを設置していることが大きな特徴になっています。本学では教養学部に「東アジア教養学」学融合プログラムが2020年に開設されましたが、北京大学は一歩先んじて、2019年度から「東アジア研究ジョイントプログラム(东亚研究联合培养项目)」がスタートしています。2022年5月8日には、2022年度学生募集ガイダンスが行われ、わたしもゲストとして参加してきました。ここでは、ガイダンス資料を紹介しながら、北京大学の取り組みについて概観してみたいと思います。
まずこのプログラムの北京大学における位置づけの高さとユニークさに目がとまります。「東アジアに立脚した新しい人文社会科学学派を創る」ことと、それを「教育共同体と学術共同体」に育てることがうたわれていますが、それは、文系学問の新しい試みであり、国際分野における「強基人材」計画の一環に位置づけられています。
「強基人材」とは、2020年に国主導で始まったエリート養成プログラム「強基計画」に基づく北京大学の教育プロジェクトです。これは、北京大学、清華大学など中国の一部大学だけに認められた入学選抜システムです。このプログラムもまた、北京大学の「強基人材」に開かれており、北京大学が独自に育成する特色ある人材が人文系分野において国際的な知性を磨くための受け皿と位置づけられています。こうした特色プログラムが東アジア研究において設立されているのが重要であるということにも注意すべきでしょう。新時代のイノベーティヴな人材を育成するためにこそ、重要性は明らかでありながらまだ専門の人材が少ないとされる東アジア文化領域からトップ人材を育てるということです。
このプログラムは全学の人文社会科学系分野の学生に開かれていますが、具体的な運営を行っているのは元培学院です。元培学院は東大における教養学部に相当するリベラルアーツ(中国語で「博雅教育」と訳されます)学部です。設立して約20年というまだ新しい学部である元培学院は、自由学科選択制度、寄宿制教育、学際的プログラムなどのような、他の学部にはないシステムを有しており、「東アジア研究ジョイントプログラム」にもそれが存分に生かされています。
わたしたちの「東アジア教養学」と異なった特徴としてあげられるのは「メンター制度(导师制)」と「カスタマイズ型選択履修提案(个性化培养方案)」です。学生には専任教員をメンターとして配置し、その指導の下で科目履修にあたっては自らの関心にしたがったカスタマイズが可能です。また、東大側では北京大学への留学が任意であるのに対して、北京大学の学生は期間中に必ず留学することが求められているのも際立ったちがいでしょう。また、元培学院が寄宿型カレッジとして運営されていることから、同プログラムの学生もそのアドバンテージを活かした読書会や講演会、課外交流活動などを寮生活の24時間をフルに活用して行っています。
EAAでは、EAAユース生(毎年後期課程生から選抜される10名の学生)には北京大学「東アジア研究ジョイントプログラム」への留学を奨励しています。これまではCOVID-19パンデミックの影響を受けて、中国籍を有する学生しか渡航できなかったのですが、今後パンデミックが収まってくればそうでない学生にも門戸が開かれて行くにちがいありません。北京大学からはようやく日本に渡航する学生が出始めました。早期に交流が全面的に恢復するのを心待ちにするばかりです。
以下のリンクからは、ガイダンス資料の全容がみられますので、興味がある人はどうぞご覧ください。