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2023.09.05

【報告】第4回『美しいアナベル・リイ』勉強会

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『新潮』2007年6月号書影。「作家生活50周年記念小説(短期集中掲載1)」とある。

2023年9月4日(金)16時半から、第4回『美しいアナベル・リイ』勉強会が開かれた。もともと昨年末のEAAシンポジウム「いま、大江健三郎をめぐって」において、岩川ありさ氏(早稲田大学)と菊間晴子氏(東京大学)の双方が期せずして2007年に『臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』と題されて雑誌『新潮』に掲載されたあと2010年の単行本化にあたり、『美しいアナベル・リイ』と改題されたこの作品における女(たち)の声に着目した発表をしたことが機縁となり、草稿研究を見越してこの勉強会ははじまった。4月の準備会を経てから5月以降意見交換をつづけるなかで、大なり小なりの書き換えから、タイトルの変更など、さまざまな生成プロセスが論点となり、それは作品が世に出るまでに働いたさまざまな力学への関心とつながっていた。そして今回、工藤庸子氏(東京大学名誉教授)のお力添えで、雑誌『新潮』連載時の担当編集者であった矢野優氏にご参加をいただき、執筆のプロセスについて、極めて貴重なお話をうかがうことができた。執筆のプロセスや、タイトルの変更、読者からのリアクションあるいは読者に対する意識、パラテクストへの関与、読者としての編集者の役割について、お伺いをすることができた。さらには、今回、同作品を再読=リリーディングした読者としての感想も共有いただくことができた。大江は『波』200712月号の刊行記念インタビューにおいて、みずからが「文芸誌メディアで育った作家」であると述べ、「毎月の〆切があって、そのたびに編集者や校閲者との話合いに集中する。あまり多くではありませんが、励ましや思いがけない書きそこないへの指摘も届く。終ると、もう一度全体の見直しを、作品完成の昂揚感のなかでやることができる……」と書いていたが、連載しながら書かれていたスピード感と体力の凄まじさが矢野氏の証言からは思われ、編集者へ直球でぶつけるエネルギーとそれを生み出す信頼について、言葉に尽くしがたいものが感じられた。FAXでのやりとりをめぐるエピソードが印象的であり、おそらく全員が田亀のシステムがリアルを生きていることを思い描いていた。きわめてご多忙の中、お時間を割いてくださった矢野氏に心から感謝したい。

報告:髙山花子(EAA特任助教)