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2023.08.23

【報告】第3回『美しいアナベル・リイ』勉強会

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2023年8月18日(金)夕方、第3回『美しいアナベル・リイ』勉強会がおよそ2ヶ月ぶりに開かれた。この間、各種文芸誌につづき、雑誌『ユリイカ』でも大江健三郎追悼特集が組まれ、昨年末のシンポジウムの記録を掲載いただき、並行して、工藤庸子氏と山内久明氏の往復書簡のブログ連載が進展し、いくつもの文脈から、『アナベル・リイ』における英詩引用と朗読について検討する準備が整ってきたと言えるだろう。

今回、岩川ありさ氏からあったフロイトをめぐる議論は、大江にとっての精神分析だけでなく、人が何を書き、書かないのか、書けないのか、あるいは書けるようになるのか、テクストが決定されるプロセスを精査するために非常に重要な視点であった。中井久夫のトラウマ理論や、小森陽一の『懐かしい年への手紙』論が参照されたが、すでに岩川氏が「大江健三郎の「年」と「手紙」—-「美しいアナベル・リイ」を手がかりにして」(ユリイカ上記特集号54-61頁)において明らかにしているように、場所のような空間的時間をまとう「年」が、循環しながら、手紙やemailといった女性たちのネットワークによって形成されるという構図は、オングが『声の文化と文字の文化』の「声としてのことば」で(邦訳36-37頁)、ノースロップ・フライの『批評の解剖』も援用しながら、テクストと叙事詩を検討する視座に「アナベル・リイ」を接続していると個人的には思われた。工藤氏からはギー兄さんが時間は循環すると言っていることや、プルースト的モダニズムの時間論が比較対象として挙げられた。菊間氏からは最新の研究状況が共有され、12月のシンポジウムについても意見交換ができ、充実した時間だった。大江にかんしては、Cinii等の論文検索サイトではまったくヒットしない書誌が少なくない点についても、学術研究における先行研究の乗り越えをめぐる今日の課題として異なる立場から意見が挙がったのは大切だったと思う。

帰り道、フロイトの超自我から、ほとんど連想ゲームでクンデラの検閲の話になったが、こうやってわずかであっても、あれこれおしゃべりできることが、思いがけない研究の糧になることを噛み締める時間だった。次回は9月初旬を予定している。

報告:髙山花子(EAA特任助教)