2023年5月12日(金)夕方、大江健三郎の『美しいアナベル・リイ』勉強会の第1回を行なった。昨年末、EAAでは、シンポジウム「いま、大江健三郎をめぐって」を開催したが、そのさい、登壇者の岩川ありさ氏(早稲田大学)と菊間晴子氏(東京大学)の2人が、まったくの偶然で、おなじ『美しいアナベル・リイ』(2007年に『﨟たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』というタイトルで発表されたあと、2010年の文庫化にあたってこのように改題された)を分析する発表を行ったことを受け、晩年様式集をすでに論じている工藤庸子氏(東京大学名誉教授)と、この作品をグループで精読するアイディアが生まれ、実現した。12月のシンポジウム後、年が明けてから、勉強会の準備を進める途上の3月、大江氏が亡くなるという出来事があったが、予定どおり企画を進めた。打ち合わせを経ての初回は、髙山が発表を担当し、蓮實重彦氏によって、同作の出版直後に、序章と終章に反復と横滑りの構造があると指摘されているテクストを確認したうえで、『美しいアナベル・リイ』が『取り替え子(チェンジリング)』(2000)と通じるモティーフを複数持っていることと、2007年に『新潮』に掲載された初出テクストと書籍化された際の冒頭の異同について、「事件」と「全体」と「部分」という言葉に着目して、手短に報告をした。映画のナラティヴと小説のナラティヴをともに論じるには相当な慎重さが必要なのではないかということや、他の大きな異同とその効果について、あるいは大江の執筆における校正段階と書籍化にあたっての校正について、さまざまな意見を頂戴した。
今年度、世界文学ユニットでは、武田将明氏(東京大学)、村上克尚氏(東京大学)にお力添えをいただき、ささやかではあるが、ふたたび冬にシンポジウムを企画している。今後もこの勉強会の報告を含め、関連記事をブログにアップロードしてゆく予定である。
報告・写真:髙山花子(EAA特任助教)