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2025.04.02

【報告】EAAレクチャーコンサート「世界に広がる中国音楽の多様性とその変遷」

3月25日(火)、文京シビックホール小ホール(東京都文京区)において「世界に広がる中国音楽の多様性とその変遷」をテーマにしたレクチャーコンサートが開催された。100人を超える観客を集めたこのコンサートは、東京大学東アジア藝文書院潮田総合学芸知イニシアティヴ、四川音楽学院の共催で開催され、司会は田中氏有紀氏(東京大学)が務めた。

開演にあたり、司会の田中氏氏がまず来場者に感謝の意を表し、中国の四川音楽学院を紹介した。同学院は歴史ある名門音楽大学であり、多くの優れた音楽家を輩出してきた。今回のレクチャーコンサートは、王文氏(四川音楽学院教授、東京大学東洋文化研究所訪問研究員によって企画された。コンサートには、四川音楽学院より、ギターのジョセフ·ペレス·ミランディリア、ヴァイオリンの王微致氏(四川省成都市音楽家協会副会長)、バリトンの王海清氏が出演した。そのほかに鍾鈺婷氏(清華大学東京大学東洋文化研究所訪問研究員)や王文の息子である王行恒氏が出演した。レクチャーでは、中国伝統音楽が西洋音楽に与えた影響や、現代の演奏家たちが東洋と西洋の音楽をどのように融合させて新しい音楽を創造しているかがテーマとして取り上げられた。コンサートは、普段は滅多に聴くことのできない貴重な演奏が聴ける機会となった。演奏のプログラムには、中国国外で初めて演奏された曲もあり、東西文化の融合による音楽の変遷を深く理解するための得難い機会となったと田中氏氏述べた。

当日は、講演に先立ち、中国の伝統音楽が演奏によって紹介された。中国の伝統楽器である古琴の演奏と、中国の伝統的な演劇芸術である川劇「変面」である。古琴の演奏者であり中国文学の専門家でもある鐘鈺婷氏は、中国の古典的な楽曲『流水』を演奏し、古琴の清澄で繊細な音色を披露した。自然の美しさと文人の精神的な追求を表現する琴の調べは、聴衆に深い感銘を与えた。次に、変面のパフォーマンスを行った小学2年生の王行恒氏は、子供らしい演技ながら、異なる面具を着けたキャラクターそれぞれの特徴を力強く表現した。

続いて行われたレクチャーコンサートは、王文氏による講演から始まり、そこでは中国音楽が世界に与えた影響について語られた。

まず、17世紀以降、中国音楽がどのように世界に広がっていったかを説明し、特に17世紀から18世紀にかけて、西洋の音楽家が中国音楽の要素を取り入れ始めたことについて詳しく述べた。

19世紀には、パリ万博を契機に、東洋音楽が西洋音楽に新たなインスピレーションを与えるようになった。ドビュッシーの「中国円舞曲」やチャイコフスキーの「くるみ割り人形」などに、中国音楽の影響が顕著になったことが見られると指摘した。

20世紀に入ると、中国を訪れた宣教師、外交官、旅行者などの記録に発を得た作品が増えた。例えばロシアの作曲家アフシャロモフの「孟姜女」やオーストリアのクライスラーの「中国花鼓」などに、中国音楽が多く取り入れられていることがわかる

また、中国の哲学が音楽作品に与えた影響についても触れられた。その一例として、アメリカの作曲家ジョン·ケージの「4’33”」が、中国の道教思想に影響を受けていることを紹介した。ケージの代表作として知られるこの作品は、音楽そのものではなく、周囲の音や静寂に意識を向けることを促す。そして道教思想が説く静けさや無為自然の重要性を表現しているという。

現在、中国文化と西欧文化の交流が進む中で、世界中の音楽家が中国文化に強い関心を持ち、それを作品に取り入れている。ウクライナの作曲家ランチャクの「陰と陽―対立する面の調和」やスペインの作曲家アウグスティンの「太陽神鳥」、ブラジルの作曲家セルジオ·アサドの「孫悟空のトッカータ」などが、その一例である。

以上のように時代を追って王文説明するのに伴い、王微致氏、ジョセフ·ミランディラ氏、及び王氏が、それぞれの時代毎に、代表的な作品を演奏し、聴衆の理解をより深めた。「中国花鼓」、「天下」、「十面埋伏」、「太陽神鳥」「太陽出来喜洋洋」などが演奏され、中国音楽の多様性と魅力を伝えた。

 

レクチャーコンサートの締めくくりには、田中氏氏が感謝の意を表し、東西文化が融合したこの貴重な音楽イベントについて振り返った。

音楽史における中国と西洋の交わりは、明代後期にキリスト教の宣教師が中国に入ってきた頃に始まる。それ以前にも、中国音楽は他地域の豊かな音楽に影響を受けていた。このように、中国音楽は、常に外からの新しい音楽と自国の伝統音楽を融合させながら、新しい音楽を生み出そうとしてきた。

近代に入ると、ドイツに留学した中国の音楽家たちが、西洋音楽を取り入れた新しい中国音楽の創造に積極的に取り組むようになった。

田中氏氏は、このように伝統音楽が他国の文化の影響を受けながら、その度に新しい伝統を生み出していく、その過程こそが重要であると強調した。

今回のレクチャーコンサートでは、音楽の歴史的背景を明らかにしようとする研究者たちと、伝統に基づきながらも新しい音楽を創造しようとする音楽家たちの、最先端の取り組みが紹介されたとも言える。田中氏氏は、音楽だけでなく、他の文化においても同様に、自国や地域の伝統に、外部から学んだ要素を取り入れることで、新しい文化が生み出されているのだと述べて、話を締め括った。

アンコール曲では「十面埋伏」が演奏され、レクチャーコンサートは盛況のうちに幕を閉じた

報告:王文(四川音楽学院)
写真:王文海、牛潇